彗星が産まれるその前に




(・諸葛誕と彦星と織姫について語り合う)


ザァザァ、今日の昼間頃はお天道様が燦々と輝いていて、とてもじゃないが降りそうでなかったのに夜に成ってから厚い鼠色の雲に覆われ始めて最終的には、このざまである。折角今日は七夕で、諸葛誕様とお酒を楽しもうと言っていたのにこれでは、室内でぼそぼそと楽しむという残念な結果に成ってしまうな、と少しがっかりして諸葛誕様と合流した。元々男女の関係なのだから、別にお互いの部屋に行き来していても何ら可笑しなことは無い。諸葛誕様、と呼ぶのは私が変に恥らっていて、妙な距離感を保っているせいだ。だから、今日の事もきっと諸葛誕様がそんな私を見かねて、誘ってくれたに違いないのだ。私は面白い人間じゃないから、話していて面白い事も言えないし、諸葛誕様を満足させるような芸があるわけでもない。



「おぉ、名前、待っていたぞ。今宵の酒は城下で入手してきたものだ」「そうなんですね」「しかし、」諸葛誕様が空を見上げるような仕草を見せた。ああ、やはり今日が晴れなかったことが残念なのだろう。私も残念だったので、「晴れなくて残念ですね」「ああ、」そういって、椅子に腰かける様に促されたので私は失礼しますと言って椅子に腰かける。ザァザァ、未だに壁を叩く雨音はやむ気配を見せない。だが、土砂降りではないのが唯一の救いと言った所だろうか。諸葛誕様が杯を差し出して、私に注いでくれたので私が慌ててそれを机に置いて、諸葛誕様の杯にお酒を注ぐ。「あまり気にすることは無いのだが……此処には二人きりだし、何より、今は立場とかそういうことを気にせずに飲みたいのだ」鋭いまなざしを優しげなものに変えて、杯を傾けた。



「そういえば、名前は知っているか。星の事を」「はぁ、あまり詳しくはないですが」「そうか」目を細めてみえない星を辿るように。「今日は七夕だ。二つ、大きく目立つ星があって、男女の星に例えられているそうだ」「へぇ……織姫と、彦星……でしたっけ」どの星かまではわからないのだが、内容自体はちょっとくらいなら齧ったことがある。織姫と彦星と言う単語を聞いて諸葛誕様が少しだけ寂しそうな表情を作り出した。「ああ、一年に一回しか逢えないというのに……こんな生憎な天気では、な。天の川が氾濫して、逢えなくなるとは。きっと二人も今頃、空で泣いているだろう」詰まり今、降り止まない雨は織姫と彦星の涙かもしれないという事か。そう考えるとても浪漫のある話だ。しかし。



「私だったら耐えられませんね」「……そもそも。私ならば、名前に毎日逢えるようにきちんと執務は行うな」「それじゃあ、彦星と織姫見たくは成りませんね」確かに諸葛誕様の性格を考えれば、まず、仕事を放棄して離れ離れなんてあり得ない話なのだ。織姫も彦星も少し駄目な所があったからこうなっているわけで。言わば、自業自得な面もあるのだ。「しかし、あれから、反省して真面目に仕事をしているのならば一度くらいの逢瀬は日にちをずらしてでも約束してやるべきだと、私は思うのだが……」実に諸葛誕様らしい意見である。真面目に更生したのだから、一年に一度くらいの逢瀬は約束してやれだなんて。ああ、優しい人だ。「そうですね」



「きっと、織姫も彦星も今日と言う日を楽しみにしていたんでしょうね」「そうだろうな……ああ、しかし、私には耐えられんな、」そういって、瞼をとじて何かを思い描くようにゆったりと体から少しだけ力を抜いた。何がですか?と尋ねる前に諸葛誕様の口が開いた。今日はちょっと飲みすぎているらしい、少しだけ酒臭かったが名前は何も言わなかった。恐らく、自分と同じにおいだ。「……名前と、一年に一回だなんて、とてもじゃないが、耐えられん。恐らく、自害したくなるほどに、切なくて恋しいのだろうな、」呟くように言って、私の髪の毛をさらさらと撫で付けた。こんなに甘えたな諸葛誕様を知らないのでどぎまぎしてしまう。それから、空に成ったお酒を退かして、コテ、と頭を諸葛誕様に預けた。



ゆさゆさ、ゆさ。誰かが揺すっている。今まで暗がりの中にいたのにふと、視界が開けた。開けた先には曇り空が広がっている。私はいつの間に眠っていたのだろう?慌てて、諸葛誕様から頭を退けようとするとそのままでいいと言われ、空を指差した。「ほら、見ろ。晴れたぞ」「……あ、本当だ、ってすみません。眠ってしまって」「ああ、いや、いい。気にするな。起こしてすまなかったな」だが、どうしても晴れて、織姫と彦星が出逢っているところを見せたかったのだ。と歯を見せて笑った。きっと、この分厚い鼠色の空の向こう、涙で顔を濡らした愛し合う二人が抱きしめあいながら、今年も逢えたね、と泣き笑いするのだ。そうに、決まっているのだ。「ねぇ、諸葛誕様」「なんだ?」「私とずっと一緒にいてくださいね、私は諸葛誕様が望んでくれる限りずっと一緒にいますから」


Title カカリア

あとがき

七夕…日本の七夕にしてしまいましたが、良かったのでしょうか。


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