パウダーシュガーと嘘の量




言わば嫉妬のようなものなのだろう、名前という女子は見た目も麗しく、身なりも洗礼されており、まさにお嬢様そのものなのだから、男子からの熱のこもった視線を送られるだけの存在ではある。そして、良くも悪くも目立ちすぎるのだ。神童財閥と名字財閥。この二人が幼馴染で、しかも将来を誓い合った仲であるということは。ひそひそ小声で聞こえる「名前ってやっぱり、神童と結婚するのかな?」「だろうなぁ。俺達には高嶺の花だよな。はぁー、俺も神童だったらよかったのに」という男子の声。俺だったらよかったのにってなんだ。腹が立って、隣に歩いている名前の手を引いて少し乱暴に歩みを速めれば、疑問符を浮かべた名前がキョトンとした表情で俺を見つめていた。名前には先程の男子の会話が聞こえていなかったらしい。黄色い声には慣れっこだ。「しん様〜」フラッシュが目に痛い。どうやら、山菜が俺たちを激写したらしい。こちらも慣れたと言えば慣れたものなのだが、名前はあまり慣れていないようで戸惑った様子で、俺から手を離して逃げ出してしまった。あれでいて、可愛い所があるものだ。高嶺の花だとか言われているけれど、俺は名前の可愛い所を沢山知っている。



幼馴染と言う立場を前に悔やんだこともあったけれど、こういうとき優越感を覚えるから、幼馴染も捨てた物じゃないと思えるのだ。俺たちのクラスは一緒なので、俺は名前の背中を追いかけて駆けだす。山菜も、一緒に小走りでついてくる。クラスの中に入ると顔を少しだけ赤らめ息を切らした名前が先についていて、汗のかいたペットボトルを口に付けて飲み物を嚥下していた。「……はあ、」「名前」「あら、拓人。山菜さんはよかったのかしら?全く、拓人だけにしてほしい物ね……」「写真の事か」そう問えば、それしかないに決まっているでしょう。と困ったように柳眉を下げて、淡く笑んだ。「でも、名字様もしん様もお似合い……」ふふっと山菜が笑ってだから、私ツーショットが欲しくて。と言霊を発した。



「はぁ、」溜息を吐いた名前はそそくさと俺の元から離れて、自分の椅子に着席して、机に先程の飲みかけの飲み物と、筆箱、ノート、教科書と並べていく。俺は何処か索漠として、仕方なく自分の席について同じように準備を始めた。隣の男子がデレデレとはしたない顔で、「名字さーん、俺教科書忘れちゃったんで、見せて貰ってもいいですかねぇ?」なんて言っている。どうせ、忘れても居ない癖に。ふつふつと頭に血が上っていくのがわかる。山菜が「しん様、顔怖い……」と呟かれて漸く俺の顔が強張った鋭い視線を持ったものだったのに気が付いた。事を大事にしたくないであろう、名前の事を考えて俺は、その場は丸く抑えこんでみせて、山菜に微笑んだ。「いや、何でもない」と。



帰り道、一緒に歩くのは俺と名前の二人だ。流石に登下校を邪魔して来る男子はいない。そこはかとなく、弁えているのだ。普段から全て弁えてくれればいいのに。と思っても、俺がそこまで嫉妬深くないとか、二人はお似合いだとかそういう言葉に絆されて、結局うやむやにしてしまうのだ。だが、いつかこのマグマの様に煮だった、嫉妬心が溢れ返ってそれが、名前に降りかかるのではないかと思うと怖い物があった。俺自身はそこまで嫉妬深くないと昔は思っていただろう。だが、今は違う。直ぐに、肯定するだろう。俺は嫉妬深いと。幼馴染で、恋人で、果てには婚約者だというのに。此処までカードが揃っているというのに、まだ、俺は名前の事を欲しているのだ。何処まで人間と言う生き物は貪欲に成れるのだろう。名前のことを骨の髄まで貪ってしまいそうだ。「はぁ、」「あら、拓人。溜息は幸福が逃げるわよ。何か悩み事があるなら聞くわ」



そう言われて俺は、これを打ち明けるべきかだいぶ迷ったが、聡い名前の事だ言わなくても何れはバレルだろうし何より、最悪の結末を迎えたくなかったので、俺は吐露することにしたのだ。「最近、名前の周りをうろつく男子に嫉妬しているんだ。今日も、ヒソヒソ話で名前を狙っている男の会話に嫉妬した、隣の席の男子に嫉妬した、俺って……本当情けないよな」これで、名前に呆れられたりしたらいよいよ、脆い涙腺が決壊してしまう気がするのだが、名前が困ったように笑っていた。それは自嘲しているようにも見えた。「拓人、それは貴方だけではないわ、」と。どういう意味だと思考を巡らせてみても答えはプリンターに詰まった紙のように出てこなかった。



「拓人は人気があるから、女子に嫉妬することもあるし、今日だって山菜さんに嫉妬したのだから。本当私って駄目ね」「!ってことは」俺たちはお互いがお互いの異性に嫉妬していたという事なのか?そう思うと何だか俺だけの独りよがりじゃなかったのだと思えてとても嬉しくなって舞い上がってしまいそうだった。そして、俺はやっぱり、名前が好きだと更に強く思うのだった。


Title カカリア

あとがき

お互いがお互いに嫉妬しているっていいと思いました。


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