あなたと私の歪な恋愛事情




(神童でお任せ、夢主はお嬢様口調)


俺達の付き合いは数えれば長い物で、言わば幼馴染と言う奴だ。出会いは有り触れた物で、親同士の付き合いからの延長線上のものであった。たまたま、友人同士、男女の子供が居て同い年。これは何かの運命だと言わんばかりに金持ち同士と言うのもあってか、俺達は小さい頃から許嫁としてその使命を背負った。幼いその背に大きなものだった。何もわからずに、おままごとにつき合わされたり、ピアノを弾いてくれとせがまれたり、我が儘を聞いてきた気がするが、それも可愛らしい物が多くて、俺は本気で嫌がることは無かった。やがて、この輪の中に自然と仲良くなった近くに住む霧野と仲良くなって三人で遊ぶ回数が増えて行った。そして、それは今でも続いている事である。



あれから、俺も名前も霧野も成長した。名前は本当に、綺麗に成った。一緒に成らんで登校すればひそひそという静かな声で密やかに言われる。「お似合いよね、神童様と名字様」「やっぱり、美男美女で目の保養よね」名前は目を伏せて、愁いを帯びた瞳で「……」無言で俺の傍にいる。そう、決められていたから。名前は俺の事を好きではないのだろう。だから、嫌なんだろう。わかっている、わかっている……。俺は、この子といつか結婚するのよと母親に言われてからずっと、ずっと、言われていたから、俺がこの子を守って俺が結婚するんだと思っていたから……俺は名前の事を愛していた。だが、この気持ちは俺だけだ、と。



「拓人、明日の登校は別々にしましょう。私、もう行きますね。霧野、拓人、また後でお会いしましょう」悲しい宣言と共にまた、あとでと伝えられる。一緒にお弁当を食べたりするのが日課だったが、その日は友達と食べるのでまた、と告げられた。俺は霧野が一緒に食べる。「名前、何で急にああいう事言ったんだろうな?」「……さあ……」意気消沈している俺に霧野は必至でフォローをしてくれているが俺は、元気出せないでいた。俺だけの片思いなのだ。決められた、許嫁だとしても……俺は……。「俺にとって、名前という存在は、特別なんだ。小さい頃に親に言われたんだ……この子が貴方の、未来のお嫁さんなのよって。だから、俺にとって、名前は、」語尾は掠れていった。「神童……、」



明日に成って、何かが変わる。なんてことは無く名前は相変わらず、愁いを帯びた瞳で俺を見つめて「拓人、行きましょう」「待ってくれ!」先にすたすた進む名前の背中を追いかけた。そして、乱暴に肩を掴んだ。こんなこと初めてだった。俺は今まで丁寧に接することを心掛けてきたし、乱暴にしたことなんか一度も無い。「何で、最近俺の事を避けるんだ?!」周りの視線が一気にこちらに、集中する。そして、窺うようにチラチラ見るのが居心地悪くて、俺は二人きりに成れるように本当はあまりよくないと知りながらも、部室に連れ込んだ。



「何で?そんなことわかっているのではないかしら。拓人、貴方も嫌だと思わないの?私は嫌よ、決められた許嫁なんて。普通の恋がしたいわ」ああ、やっぱりだ。俺が許嫁なのが嫌なのだ、と涙ぐめば。「昔から貴方はそうね、拓人。泣かないで頂戴」と薄桃色のハンカチを出して俺の涙を拭ってくれた。「そんなに嫌だったなんて思っていなくて、ぐすっ……」ああ、許嫁だなんて縛り付ける俺が悪いのか?俺の親や名前の親が悪いのか?名前を苦しめているだけなのか?「嫌だなんて思っていないわ、拓人こそ、嫌でしょう?」「俺は、っ……例え、決められたものだとしても名前の事を小さい頃から大好きだと思っている……っ」と涙が止まらないので、涙声で訴えかければ名前が目をまあるくした。



「……!てっきり、私嫌だと思っていたのよ、決められた許嫁と結婚だなんて中学生の私たちには重すぎるもの」ハンカチは俺の手に渡りしなやかで白い腕が俺の体に回った。初めての出来事に匂いとか温かさとか時間とか一切感じられなかった。ただ、わかるのは、小声でごめんなさい、拓人、と呟き涙を流しているのだろう。一部の部分が湿って、冷たさを伝えたからだ。段々と意識が呼び戻されて、俺は名前の体がとても柔らかく華奢で温かな物だと確認できた。そして、俺は恐る恐るだけど、名前の体に手を回したのだった。



「私、拓人は許嫁の私なんか嫌いだと思っていて、拓人と普通に出逢って普通に恋愛が出来たらなぁと思っていたのよ、ごめんなさいね、拓人」「いいんだ、だけど、もう俺から離れないでくれ」決まり事だとしても、俺達は愛し合っていることに違いはない。だから、俺達は体温をこれからも分け合うのだ。

Title Mr.RUSSO

あとがき

お嬢様口調と言われて、ならばお金持ちの許嫁設定にしようと即座に決めたのですが、なんかありきたりですね。すみません。


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