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(・諸葛誕と政略結婚する)


諸葛誕様を私はどんな人物か知らなかった。ただ、唐突に両親と国に言われた言葉「貴女は諸葛誕様の元へ嫁ぐのよ」私は何でとか、どうして、とかもう考えられなかった。冷たく突き放された気分だった。確かに花嫁修業の様な物や礼儀作法などを叩きこまれていたがまさかこのためだなんて微塵にも思っていなかった。顔は、よくも悪くも普通。傾国の美女だとかそういう類ではない。所謂、政略結婚という奴だ。そして、運悪く諸葛誕様も私を選ばざるを得ないという状況なのだろう、心中察してしまう。諸葛誕様にだって好いている方はいらっしゃったはずなのに私を側室ではなく正室として、迎えねばならないのだから。



そして、幾度かの月日を跨いだある日、とうとうその日がやってきた。がっちがちに緊張した私は呼吸をするのすら忘れそうになっていた。思い出したかのように吸って吐いての当たり前の動作をする、私は道具だった。婚儀は早々に終わり、相手の顔もロクに見られないまま、私は諸葛誕様のお屋敷にお呼ばれした。女官たちがひそひそ噂をしていたが私たちが通ると柔和な顔に成り「諸葛誕様!おかえりなさいまし」等と声をかけてきた。皆、諸葛誕様を慕っているのだ……というところに少しだけ興味を持った。相手は多分私の事等興味の欠片すらないのだろうけど。(あと、愛も。私は愛も恋も知らない女だった)ある一つの部屋に立ち止ると「此処が私の部屋に成る、あと名前殿の部屋はその右だ」そう言って手を翳した。



私はお礼を告げて、諸葛誕様を改めてマジマジと顔を見た。眉間に皺が寄っていて、何処かとっつきにくそうな印象を受けた。それでも申し訳なくて諸葛誕様に「申し訳ありません……、諸葛誕様にも好いている女性くらい居たでしょうに」と呟くように独り言のように言えば、諸葛誕様は目を円らかにしていた。「そのお言葉そのままお返し致そう、お互い様なのだ。それに、決められた婚儀とはいえ夫婦。今は形だけの夫婦かもしれない……だが、私は貴女が嫌で無ければ本当の夫婦に成りたいと思っているのだ」「!」「だから、明日から私は貴女を妻として正妻として扱おう」私は衝撃で口もきけなくなってしまった。そんな事を考えていらっしゃったなんて……と心の広さに、諸葛誕様の御心に触れたいと願ってしまうのだった。私はその日から諸葛誕様への思いが義務や、仕方なくではなくなったのを覚えている。



「いってらっしゃいませ」街の視察に向かう諸葛誕様を朝早くに起きて着替えて、お見送りする。諸葛誕様はまるで、愛しい物を見るかのように目を細めてゆっくりと私の頭を撫でた。「ああ、行ってくる。土産は何がいい?」「……え?」「言った筈だ。私は、貴女を妻として迎え入れる以上、私の正妻……として扱うと」そう言って、悲しげに口元を歪ませた。そして、今日は私が見繕ってこようと、作り笑顔を張り付けて出て行かれた。私は……、恋も愛も知らない。だけど、諸葛誕様は政略結婚だとしても、妻として私を迎え入れてくれようと、心から思ってくれているのだと思うとなんだか疼痛がして、眩暈すらするような病を得たような気すらしたのだ。



その日は帰りを夕餉の支度をしながら、長い事待っていた。女官たちは私を信用していない、まるで敵を見る様な目で見ているのだが、仕方がない。政略結婚なのだから。でも、歩み寄ってきてくれる諸葛誕様も見て、私も歩み寄りたくなったのだ。だから、夕餉の支度は我々がやりますわ、と言う女官にお願いして私が夕餉を作ったのだ。自分なりに色々、今まで花嫁修業のようなものをしてきたので、不味い物ではないと思うのだが……諸葛誕様の口にあうかは心配だ。そして、今が旬の桃をいくつか用意してみた。きっと、お疲れに成って甘い物も食べたくなるだろうから。



「只今、戻った」そう言うと周りに人だかりができる。それに笑顔で応対し、皆を労う諸葛誕様は人望が厚いようだ。そして、私に目を向けると手には簪が握られていた。「これを貴女に送らせてくれ、貴女を思って選んできた」「このような高価な物を」「……貴女に良く似合う、」そう言って、私の髪にさしてくれた。そして、夕餉の時間「あの、今日は僭越ながら、私が作りました」すると、私を敵視している女官が「毒見いたしましょうか?」と言ってきたので、悲しく成りながらも諸葛誕様がそう望むならと自分から毒見を私がしてからでも大丈夫ですがと笑んでみれば、切ない表情で断られた。「私の妻と成る人間が、そのような事をするとは思えん。有難く頂こう」そういって、ご飯に手を付けそのまま、頬張った。瞬間、瞳を見開いた。「これを、……貴女が?」「はい、あの……お口に合いませんでしたか?」恐る恐る表情を覗き込みながら、尋ねれば否と答えて純然成る笑顔を見せてくれた。「私は、貴女のような人を迎えられて幸せだ。例え、出会いが政略であったとしても、だ。これからも、良い夫婦と成ることを目指そう」「はいっ!」私も諸葛誕様が夫で良かった、と思えた。

Title リコリスの花束を

あとがき

何だかんだで諸葛誕は、無碍にしたりしないで歩み寄ってくれると信じた結果のお話です。こんな微笑ましい物だといいなと思い書きました。素敵なシチュエーション有難うございました。


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