さいごの告白をゆるさないでいてください、



(シグラギ/螢ルートの末路)


シグラギさんが処刑されると聞いた。人間だというのに唯一お前ならば、信用してもいいと思うと黙って傍に置けと言ったシグラギさんがだ。どうやら、斬鉄様も処刑が行われるらしい。私は涙を流しながら必死に人ごみをかき分けて、シグラギさんの顔を瞼の奥、脳裏に焼き付けるように必死にその顔を凝視した。さっさと歩けと、役人の怒声が飛び交い殴られ蹴られる。シグラギさんたちはそれに漸く、あまり前進していなかった足を進める。人間だったのならば若しかしたら罪はもう少し軽かったのかもしれない、鬼だったからこそ、死罪だったのかもしれない。そう思うと鬼と人の壁はなんて分厚いのだろうと(えぐいのだろう)同情を禁じ得なかった。



シグラギさんたちは堂々としていた。これから処刑される身とは到底思えない程美しく、気高かった。鬼族の誇りと言う奴かもしれない、泣いて詫びて命乞いをするなどは決してしなかった。ただ、黙って見物に来た観衆を睥睨しては見下したように凛とした黄金色の瞳を少しだけ彷徨わせていた。そして、目があった。私を見るなり、お前……と呟いて、動きを一瞬止めた。また役人から痛めつけられる。さっさと歩けと。「……な、ぜ……、此処に来るな、俺の無様な死に様を、お前を悲しませたくない」初めて凛として毅然とした態度が崩れて黄金色の瞳が揺れた。それは決して死を恐れての事ではない、と。



鬼と話していると、バレタ私は観衆の目を集めることに成った。が、そんなことどうでもよかった、愛した人が今処刑されようとしているのに、何故そんなことが気に出来ようか?鬼族と人は相容れない、決して、このように悪鬼として処刑されるシグラギさんたちを見ればまた溝が深まるのは一目瞭然だった。この悪鬼と呼ばれるシグラギさんたちを捕まえたのは螢という人物らしい、皆はこれから処刑晒し首にされるであろう、シグラギさんたちに罵詈雑言、この世のありとあらゆる悪意と罵倒を浴びせていた。「シグラギさん、シグラギさんっ……!」「っ……、」名前を切なげに泣き叫べばシグラギさんが目を離した。



今度は立ち止まらずに、そこに座るようにと地べたに座らせられる鬼族たち。ああ、始まるんだと悟った。人風情が、と呟いた斬鉄様の言葉を最後に斬鉄様の命の炎は掻き消えた。あの美しかった緑色の髪の毛が地面にポトリと落ちている。「斬鉄様、」シグラギさんの声が風に乗ってやってくる。そして、二番目にと順番が巡ってくる、斬鉄様の血で血塗られた刀が向けられる。その切っ先は、てらてらと鈍く光っている。「名前、」名前を呼ばれて私は二度と交わらないと思っていた視線に地面に足を縫い付けられた、こんな最後見たくない、と目を逸らそうと思えば、シグラギさんの口が口パクで動くのを捕らえた。



刹那、鈍い音と共に春のさくらを思わせるような髪の毛を散らせ、シグラギさんの首が、「ああああああああああっ!!」その場にくずおれて、観衆の目を気にせずに泣き続けた。明日目が腫れようが、どうなろうが知ったことではない、私も彼の後を追いたい。けれど、シグラギさんは許してくれるだろうか?最後に口パクで伝えた言葉は「あいしている」だった。ずるい、ずるいよ、シグラギさん。


title 月にユダ

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