はじまりの中の赤



(剣が君のシグラギ)


最初はこの女を捕らえた時、人身売買に使うつもりだった。女はまあ、人間にしちゃ綺麗なほうで、高く売れると思ったからだ。だが、シグラギは未だに手放せずにいた。何故かわからない。たかが人間風情に、他の手下の鬼に示しがつかない等々困りごとは多々あったがそれでも、傍らから離れていくのを想像するだけでチクリと胸に張りが突き刺さったような感覚を得るのだった。桃色の髪の毛を名前は褒めてくれた。まるで春の桜の様ねと、おれが怖くないのかお前はと問えば、怖いよって答えた。わからない。わからない。



「シグラギ様ぁ、いつまであの女を置いておくつもりですか?」「……」矢張り人間と鬼は相反する存在。前頭に生えている自慢の一本の角に触れて、長考する。自分は何故あの女を手放せない?無意味に触れて脅かすことも、無意味にあんまガタガタ言ってっと売り飛ばすぞと脅す言葉も、どれもなんだか自分の意思ではなく鬼として、この山賊の頭領として言っているだけに過ぎやしないとすら思っていた。「まさか、な」いや、まさか。我々鬼族は人を憎んでいるはずだ、だから、こんな感情は抱くのは不自然だ。ふぅ、と長い溜息の後に潜んでいたのは思慕であった。



「軽蔑するか?お前を売ろうとしたおれが、お前を好いていると言ったら」「人間には興味が無いのでは?」シグラギの疑問に疑問で押し返す。人間の女にそう言われるのは腹が立つ、シグラギは少し苛立ったように眉根を寄せたが前まではなとだけ唇がかたどっていた。「イラつくが、どうやらおれはお前が好きらしい」無理やりに腕を引っ張ってしまえば、胸に飛び込む形に成った。どっちかわからないような中性的な綺麗な顔立ちが今まで見たことないような表情を覗かせていた。名前はそれに戸惑ってしまうばかりだった。名前は男性に思いをこうして寄せられたことが無かった。それも、まさか人間ではなく鬼族の山賊の頭領ともなれば余計に驚いてしまうのは無理も無い事だった。


シグラギは手の力を緩めずに、片手で容易に名前の手を彼女の頭上で纏め上げて唇の端を持ち上げ舌なめずりをした。「おれが怖いか?」人を殺めてきた、人身売買を行ってきた、金品を巻き上げてきた。身ぐるみを剥いできた。「おれはお前が欲しい」それから何度も求めるように唇を重ねた。名前は空気を求めて次第にもがきだすが、それも抵抗が無いに等しい物だった。苦しそうにもがくのを見て、漸くやめてやることにするかと嗜虐心を散々に煽られたシグラギが口を離してやった。何度口づけたかわからない、ただ、唾液が名前の唇の端から零れているのを見て、なんだか滑稽に思えて、プッと吹き出してしまった。「間抜け」罵倒する言葉も全部全部愛しさを含めた物だと思うと名前もそれほど恐怖を感じなかった。


title エナメル

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