その楽園は美しいか



(・浪川、喜峰、凪沢が夢主を拘束する)


奇妙な夜だと思ってしまった。天井には星ひとつ無く、ただ自分の服の布のすれる音だけが聞こえてくる。ぼんやりと自然と慣れてきた目を見開き、ギョロギョロと視界を動かせば此処が個室であることがわかった。ドアが一つぽつんと寂しげに佇んでいる。ああ、あそこまで行って、この奇妙な部屋から出なければと思い足を前にいつものように、進めたのだが、ジャラリと何か鉄の音がして(そう例えば鎖)早大に前のめりに転んでしまった。自分の体重で音が大きく鳴り響いた。あちゃ、やってしまった、右足から血が出ていると余裕をかましながら、ボーっとしていると。途端、外が騒々しくなって、中に誰かが入ってきた。



「どうした?!」「名前先輩が起きた?」「漸く起きたんですね!」男の子三人の声。しかも、見覚えがある。この三人は私が担当しているシードじゃないか(マネージャーとしてついて来たのだ)。これは若しかして助けに来てくれたのだろうか、と期待を込めて「ええ、大丈夫。転んだだけだから」と言うと、「馬鹿!傷がついたら大変だろう!」とすりむいて血が出た所を浪川君がベロリと舐めた。それが妙に厭らしく感じて「やめて、大袈裟な事じゃない」というと「先輩俺たちの先輩が傷ついたら大変じゃないですか」と凪沢君が言った。いつも穏やかな表情と笑みを湛えているのにも関わらず今日は何だか様子が可笑しい。それに言っている言葉をうまく咀嚼出来ない。「俺たちの先輩」ってどういうことだろう。



「あーあー。派手に転んじまって。キャプテンやっぱり、鎖短すぎますよ」喜峰君が私と未だに傷口に着目している浪川君を見下ろして言った。そこである程度、自分の身に起こっている事柄に気づき始めたのだ。彼らは助けに来たわけじゃないということに。「そうかぁ?まあ、扉までたどり着けなければいい話だしな。もう少し伸ばしておくぜ」そう言って鎖を伸ばしてくれた。でもこれでは、行動範囲があらかじめ決められていて、困ってしまう。「助けてくれないの?」「助ける?冗談ですよね、先輩」「そうだぜ、俺たち三人で話し合って決めたことなんだ」喜峰君と凪沢君は相変わらずいつもの様子なのに、冷たい瞳をしている。「私の意見は、人権はどうなるの?」



「そんなの決まってらぁ。シードだから聖帝に揉み消して貰うんだよ。だから、今日から名前の家は此処だぜ?」浪川君が言った。「この個室には必要最低限の物は揃っていますから、安心ですね」そう言われてぐるりともう一度見渡せば、トイレや机に椅子、自分の着替えもいつの間にか存在していた。先程までは無かったように思えるのだが。どうやらパニックで色々な物を見落としていたらしかった。「俺たちずっとお前の事が好きだったんだぜ?」「え?そんなの知らないよ」否定した、だってそんなの勝手な都合と想いを押し付けているだけに過ぎやしないじゃないか。あまりにも暴論すぎる。「先輩〜、そういう男心を弄ぶの、よくないと思います」口元だけ笑みを浮かべた。男心を弄んだ記憶はない。私はただのマネージャーなのだから。「そうだ、そうだ、俺たち三人必死でアピールしてきたのに全無視って、来たもんなあ。流石に頭にくるって」



喜峰君がイラついたような声を漏らしたが直ぐにそれも明るい物に変わった「でも、これからは、名前先輩とずっと一緒だから問題ないか」愛らしい人形を愛でるように私の髪の毛をすくってキスをした。「あー!ずるいぞトビウオ野郎!」そういって今度は浪川君が私の頬にぷちゅっと口付けをした。「二人とも、やりすぎですよ……」唯一何もしてこなかった、凪沢君はずっと先輩に触れたかったんですと言って、私の髪の毛に触れ、それから前触れも無く抱きしめた。「ああ、先輩先輩先輩。好きです」「おいおい、そんなの野郎ども皆同じだっつーの」浪川君の呆れ声がなんだか遠く聞こえた。



「まあ、今日は状況を把握して貰っただけでいいか」「今日は目を覚まさないかと思いましたしね」「そうだな、寂しくない様にローテーションで来るから安心してくれよ。抜け駆けは許さねぇからな」そういうと浪川君だけが残りあとの二人は出て行った。今日は浪川君が担当なのだろうか、それにしてもこの空間だけが時間に取り残されているみたいだ、今が昼か夜なのかすらもわからない、ただ、わかるのは此処が密室である事、絶対に外のお日さまを拝めないという事だけだ。何回目に成るんだろう、好きと言う呪文の言葉は。もう、聞きたく、ない、

title カカリア


あとがき
拘束っていうことなので、皆ヤンデレに成ってしまいました。私もこの三人が大好きなので、書きやすかったです。有難うございました。

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