綺麗ごとだけの世界で



(生きるしるべの星降で荒廃した世界を二人で共依存しながら生きる)


俺たちは二人ぼっちだ。世界はまだ辛うじて息をしているけれど、若しかしたらその内息絶えるかもしれない。こんなに、荒廃していて生きている方が不思議なのだから。「あっ、空から人が降ってきたよ、香宮夜」「いつもの事だろう」こんな会話真面であろうか、否まともじゃない。二人とも感覚が狂っちまっているんだ。でも、それでも別に良かった。隣に名前がいるそれだけで、俺は救われていたからだ。名前も同じだといいな、と少しだけ思った。だって、名前は元々練炭自殺を図った人間だからだ。



グシャリ。人の死体を踏みつける事には慣れている。金目のものを抜き取って、取りあえず明日を生きることに専念する。名前に食べ物を半分寄越して俺の家で二人で眠る。朝、起きていなくなるのが怖くて堪らなくて、俺はいつも名前を抱いて眠る。そうすることで孤独感に苛まれることも、喜多たちの事も薄れていく気がしたからだ。俺は親が死んでも、友達が死んでも、知り合いが死んでも、何ともなかった。死のうと言う思いに結論に達しなかった。俺は感覚が可笑しかったのかもしれない。人として何かが欠けていたのかもしれない。でも、今では可笑しなことに名前が居ないと生きていけない。



名前は喜多と同じような人間だった。所謂友達が死んだあたりから歯車が徐々に狂い始めて、親が蒸発したときに、もう死ぬしかないという結論に達したらしい。俺とは違ってまともな思考回路を持った人間だったということだ。「香宮夜、何処行ったの」名前の呼ぶ声がする。キュッと、シャワーを止めて、風呂から上がる。「ごめん、風呂入っていた。どう?テレビの方は」テレビを見ている、名前に問い掛けると少しだけ涙目を作った。ふるふると首を振る。「殆ど砂嵐。その内テレビとか使えなくなるかも。その時はどうしよう香宮夜」



その時が来ても一緒に生きようって俺は決めている。どんなに荒廃し殺伐とした世界でも生きる希望(名前)が死なない限り俺は生きていたい。俺は名前を愛している。「名前は俺の事好き?」名前は一秒も迷うことなく答える「好きだよ」って微笑みながら、こんな時は世界の事を忘れてしまう。女の笑顔一つで世界を忘れるなんて俺も落ちたものだ。と思いながら、「俺は愛しているよ」とわざと耳元で囁いてやった。名前の奴は顔を真っ赤にさせて、もう香宮夜の馬鹿!と言ってクッションに顔を埋めてしまった。



「もしも、世界が終ったとしても。俺は名前と生きていたい。例え死ぬことに成ろうとしても隣で死にたい」「私もだよ、香宮夜」そう、そうなのだ。俺たちはお互いに依存しあいながら生きている。だから、片方が欠けては駄目なのだ。片方が欠けた時恐らく強かな俺でも死んでしまうかもしれない。ようやく希望を見つけたのに。同じ人間に出会えたのに。死体処理所はどうやら、間に合っていないらしい。早めに見切りをつけた、隼総と彼女は正解だった。漸くみられるニュースを見つけて知った。



街を歩く。天河原に行ってももう僅かしか登校していないだろう。よそ者の、名前を連れて行っても問題あるまい。だって、あの路子ですらも自殺したんだし。「ほら、此処俺の学校。プラネタリウムがある」「わぁ、見てみたいなぁ」「いいよ、見ようよ」「え、でも」私は学校の人間じゃないし。と渋る名前の手をぎゅっと握りしめてもう、この学校もまともに機能していないから大丈夫と諭して中に入れた。中に入れると星々を映す機械が、デンと偉そうに鎮座していてもうない役目を順守し続けていた。



俺がボタンをカチッと押すとプラネタリウムが動き出す。よく先生の手元を見ていたから動かし方を知っていたのだ。「俺の夢はさ、月に行きたかったんだ」「そうなんだ」「ほら、色んな星が写っている……、どんな星とか俺忘れちゃったけどさ……、」ゆっくりと俺の影を名前に重ねて行く。リップノイズはプラネタリウムの音声に掻き消されてしまったが、隣にいる名前は幸せそうに笑っていた。この世界の事を忘れて、日常に帰ったように。プラネタリウムから出るとそれも夢だったんだ、って思い知らされるのだけれどな、でも、今は名前と出来なかった青春を送りたい。


あとがき
星降君だけ生かしたのは彼は強かだろうなという勝手なイメージからでした!まさか、生きるしるべの続編が来ると思っていなかったので嬉しかったです。最近は大変そうですが、どうか、お気をつけてお過ごしください。

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