さあ、ぼうけんのはじまりだ



(・アブソルで喋らない)


足の痛みに耐え苦悶の表情を浮かべたアブソルが、ゆっくりと草の生い茂った場所を陣取るかのようにどっかりと座りこんだ。これはまだマシな方だ、そう己に言い聞かせて。普段ならばもっともっと、目の敵にするかのように自らのポケモンを繰り出して本気で殺しにかかってくる。だが、今回は前足だけを怪我しただけで済んでいる。不幸中の幸いか、今回見つけたのは大人たちであって子供であった。だからポケモンの程度も低くこれだけで済んだのだ。息を潜めて、周りのポケモンに目を傾ける。舌をチロリと出して前足を舐め傷を塞ごうと努力した。



それでも塞がらぬ傷口はジュクジュクと膿んでいった。もう、これではうまく立てまい。その時だった、草むらを歩き、草むらをかき分ける音が聞こえたのは、アブソルは耳をそばだてて、それが去るのを待った。が、どうやら見つかってしまったらしい。人間の女だ、とアブソルは瞬時に分かった。胸のふくらみに、体の曲線。何度も見たことがあるが、この女はまだ、成熟していない。その証拠に幼さを残してキョトンとしている。アブソルを見て、足を怪我しているのに気が付いたらしい。「君、大丈夫?傷薬使う?」プイとそっぽを向いて、そんなもの要らぬ、人間の物など使わぬという意思表示だったのだが、そんなものはどこ吹く風か。いつのまにか前足には傷薬がべったりと塗られていた。「じゃあ、元気でね」



女は名を名乗らずに立ち去った。まだ、痛む足をプラプラ動かして見れば少し治っているのに気が付いた。あの女はもう来ないだろうと踏んでいたのだがアブソルの予想は外れて、その女はまたやってきた。あれでは足りないと判断したのだろう。今度は大量の傷薬を抱えて、何度も何度も刷り込むように、塗り込んだ。アブソルは何故か攻撃が出来なかった。女から悪意も、何も感じなかったからだ。そのまま数時間も待てば、傷口は塞がり歩けるようになった。「君は優しいんだね、皆から虐められて、それなのに……全然反撃しないんだね」ふん、優しく等あるまいとアブソルは心の中で思った。無益な争いだと思ったからだ、と。



「私ポケモンね、持っていないんだ。これからゲットをするんだけどね。どの子がいいとか君わかる?」わかるわけがないと内心で毒づきながら、よくポケモンもいないのに危ない中、己の元へと通ってくれたな……と心臓の部分が温かくなったのに気が付いた。この子についていきたいと、思ってしまったのだ。だけど、女は嫌がらないだろうか?等と無駄に心配をしてしまい、顔色を窺った。「……?どうしたの。あ、これモンスターボールなんだけどさ。まだ、使い方も今一わからないんだよね。投げればいいのかな」コトリと、モンスターボールを地面に置いたときアブソルは漸く自由のきくようになった前足でボタンを押して自ら入って行った。抵抗はしなかった。その証拠にぐらぐら揺れるはずの、ボールは一切揺れなかった。



「えっ、ええええ?!」女は驚いていた。まさか、こんな形でポケモンをゲットできることに成るなんて思いもよらなかったからだ。女は慌てて、アブソルをいったん外に出した。「どういうことなの?!」と驚きを隠せずにアブソルに聞けば頷いてフンと鼻息を鳴らしただけだった。お前に成らばついて行ってもいいと思ったからだなんて素直に言えずにアブソルはどっかりと腰を掛けた。これからは、自分がこの女を守ろうという誓いを立てて。「あ、あの……不束者ですが、よろしくお願いします……。私は名前だよ、君はえーっと……アブソルだよね。私あんな迷信なんて信じていないから」



だから、気にしないで堂々と前を一緒に歩いていいんだよ。ってギュと強く抱きしめられた時、アブソルの心臓は燃えそうなほどの熱を帯びていた。これが、初めて知る新しい感情だと知るには当分時間がかかりそうだが、アブソルはさほど気にする様子も無く、草むらをかき分けて歩き始めた。「ああ、待ってよ!おいて行かないで!君とも仲良くしたいんだから」自分と仲良くしたいだなんて、本当変わった人間だと人間にはわからない程度に口元に弧を描いて、速度を落とした。「もう、私ビギナーなの覚えておいてよね!せ、戦闘指示下手だったら、ごめんだけど……!」さぁ、ぼうけんのはじまりだ。



あとがき
sora様、リクエスト有難うございました。アブソルというと何となくこういうイメージしかないので、ありきたりに成ってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いに思います!お世話に成っています!有難うございました!

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