取り戻す



(・シード風丸とのその後のお話、甘でも裏でも)


風丸君と復縁後、私は、同棲するわけにもいかず(風丸君の迷惑にも成るし)、週に二回ほどのペースで逢うように成っていた。その間、寂しさだけを覚えた私は恋愛が何たるかを理解しようと、努力を積み重ねていたのだがどうにもうまくいかずにもどかしい思いをしていた。風丸君は、ゆっくりでいいからと待っていてくれている。キスもセックスも無いけれど、私たちは確かに恋人同士に戻ったのだ。寂しい時は私から手を繋いでみたり、連絡をしてみたりする。シードたちは相変わらずだけど龍崎だけは何故か複雑そうな表情を浮かべては、沈黙した。



「風丸君」お待たせ、と成るべく女らしい格好と化粧を施して会釈をした。「ああ、名前。俺も今来たところだ」今日は風丸君とおうちデートだ。勿論、場所はシードを預かっている私の家ではなくて、風丸君のおうちだ。風丸君の手に自分の手を重ねて、影法師を作る。影を追いかけていれば、あっという間に風丸君の家についていた。風丸君が、重たそうな鞄から鍵を出して鍵穴に差し込みぐるっと回す。そして、ドアノブを回した。「いらっしゃい」「お、お邪魔します」相変わらず、緊張してしまう。此処に来ると、昔を嫌でも思い出してしまう。そう、ぎこちない仮の彼女彼氏だった、あの日の事だ。



「緊張するなよ、何もしないんだから」俺はとことん待つって今度は決めたのだから、とはにかんでみせたが、それはそれは申し訳ない事をしているなという罪悪の念に駆られるのだった。何とか緊張を解そうと努力をして、椅子に腰を掛けた。「うぅーん、慣れないんだよね。ほら、私って、風丸君以外と経験もないし、初めての彼氏だったわけだし」元のさやに納まっているわけだが。実際私は何も知らない状態でまた、付き合っているのだ。「ふふ、俺が全部、初めてか」なんだか嬉しいなあ、と笑っているが、笑いごとじゃない。



「どうやったら、キスしたいとか思うんだろうなぁ」「さあ、な。愛しいって思ったら自然と、したいと思うよ。俺は」風丸君の言葉は難解というか、反芻しても理解できない。自然って、いうことは……このまま風丸君に甘えっぱなしのまま、宙ぶらりんで居るってことになる。それは駄目だ!私は、このままでは何も前進できないと踏んで、行き成りだったが腰を据えていた椅子から立ち上がり、軽く頬にキスをしてみせた。私の方が風丸君よりも小さいし屈んでもらっている状態ではなかったので、少しだけつま先立ちに成ってしまったが、そんなことどうでもよかった。


「なっ?!」「?!」風丸君の反応に吃驚して私は反射的に、風丸君から直ぐに体を離した。いけないことをしてしまったのだろうか?とひやひやしながら風丸君を見上げると風丸君が手を口元に当てて「反則だろう……」って小さく呟いていたのを聞いた。何が反則だったのかはわかっている。行き成りの頬へのキスの事だろう。風丸君はいつも余裕たっぷりなのに、今日に限っては違うようだった。顔と耳を赤らめていて、乙女の様に恥らっていた。「……風丸、君……」その反応が、私の胸を動かした。ポンプが心臓に血液を送りだしているかのように逸り出す。



私は覆っている邪魔な手を払いのけて今度は唇にキスをしてみた。小鳥がツンと餌を啄むような簡単な物ではあったけれど、風丸君を更に驚かせるのには十分な物だったらしい。今度は目をこれでもかと、見開いていた。綺麗な瞳には私一人だけが映っていた。「名前?!きゅ、急にどうしたんだ……、こんなことしてきたのは初めてじゃないか」「うん。なんかね、風丸君の言っていたことわかったかもしれない」まだ、仮定の段階に過ぎやしないのだけれど、頬を赤らめた風丸君をもっと、見たいと思ってしまったのだ。きっと、これが愛と言う奴であろう。そして、もっともっと、愛したく成った。だから、頬から唇にキスを施したのだと思う。



「ねぇ、風丸君。今更だけど」「ああ」だけど、私にも恥と言うものは存在するようで、羞恥心に今度は苛まれていた。「風丸君の事、大好き」「……ふふっ、俺は愛しているよ」本当は私だって言いたいけれど、覚えたての愛では稚拙すぎて、言葉にするのは難儀すぎた。だから、幼い愛情で大好きだと伝えたのだ。どうしても伝えたかったのだ。私はまた、一つ、大事な物を取り戻した。今度は風丸君という、愛しい人のお陰で。そして、また唇が重なる。


あとがき

風丸君は過ぎ去る人なので、どうしても出番が無いうえにフラグもないので苦戦しがちですが、こういう形で愛を取り戻すのはいいなぁと思って書きました。有難うございます。

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