血を繋いで




(・黄名子のお母さん)


黄名子、うちを心配する声が聞こえる。お母さんはうちがサッカーをするのが心配らしい。病気がちなお母さんはよく、病院でうちの外での出来事を楽しそうに聞くけれどたまに強張った顔つきで、怪我はなかった?変な人に絡まれなかった?と尋ねる。勿論、大丈夫やんね!って元気よく、当たり前のように答えればほっとしたように白いシーツを手繰り寄せては、うちの手を白く冷たい手で握りしめた。お母さんは私を愛してくれているけれどちょっと過保護だと思う。サッカーは楽しいけれど怪我をすると少しだけ自重するように言われる。それは女の子だからっていうのもあるし、怪我をされたくないからっていうのもあるらしい。



ある日、アスレイさんに出会った。将来のうちの旦那様らしいやんね、正直とても信じがたいのだが、うちは将来フェイと言う男の子を授かるが超能力を持った所謂、セカンドステージチルドレンとして生まれてしまうらしい。鵜呑みにはできなかったけれどうちはどうやらその子と引き換えに死んでしまうらしい。急に死と言う単語が怖くなってその日はアスレイさんと別れてお母さんの元に泣き付いた。「黄名子、あのね、お母さんも黄名子を産むとき死んじゃうかもしれないって言われたけれど、黄名子に逢いたかったから生んだのよ」どうしても黄名子、貴女に逢いたかった。そういって双眸から涙をほろりほろり零して私を抱きしめた。弱弱しい力で抱きしめた。



「アスレイさんって人ね、本当ならば、黄名子はどうするの?」お母さんの言葉を思い出していた。どうして、お母さんは強いんだろう?うちに逢いたい為だけに命がけで私を生んでくれた。それが、例え命と引き換えだったとしても生んでくれた。「わからない」これが正直な今の答え。だって、うちはまだ、お母さんになんか成ったこともないし、お母さんの気持ちがわからないから、だから簡単には応なんて言えなくて。アスレイさんには申し訳ないけれどこの話は断ってしまうかもしれない。そう思ってしまった。だって、うちはアスレイさんもフェイって子も知らない。



「いいのよ、黄名子の好きなように生きて」例え嘘でも真でも。黄名子の感情が大事、私はその人を知らないから黄名子が一番の宝物。だから、孫にあたるかもしれないフェイの命と引き換えになんて悲しすぎてお母さん、早死にしちゃいそうだわと言った。お母さんの深い愛情を一身に受けて、うちは、またアスレイさんに逢うとお母さんに告げた。お母さんは案外素っ気なくて、「そう」とだけ言ってうちを見送ってくれた。



翌日、指定された時間にまたアスレイさんと逢瀬を重ねた。アスレイさんは「気持ちは固まったかい?」と紳士的に尋ねてきた。大人のアスレイさんをみても現実味は沸かないけれど。でも。「うち、フェイを助けにいくやんね。きっとお母さんも同じ状況だったら、私と同じ選択肢を選ぶと思うから」そうだ、うちはいつか岡さんに成るんだ、今のお母さんと同じように。そして、うちもきっと心から子供を愛するのだ。今のお母さんの様に。太陽の様に眩しい程のキラキラ降り注ぐ光の様な愛情を、沢山沢山ぎゅうぎゅうに体に詰め込んで。だから「フェイを助けに、行くやんね、絶対に」死ぬのは嫌だけれど、お母さんも命がけでうちを生んでくれたように。



「お母さん、うち決めたやんね、」「うん、わかるわ、貴女のその目を見れば」そんなに真剣な目をしていただろうか、やっぱりお母さんの目はごまかせないらしい。うちはいつも通りのつもりだったけれど、矢張り纏う空気等は異常だったのかもしれない。「フェイって子を助けに行くのね」うちが口を開くよりももっと先にお母さんが口を開いた。何処か涙声だったのは知っていたけれど。「うん。お母さんがうちを命がけで生んでくれたように、うちもその子に出来る事をしてあげたいやんね、」「そう、お母さんの気持ちをわかってしまったのね」カーテンがカサカサ布のこすれる音と共に風に舞い上げられる。



「うん、わかっちゃった。お母さん、有難う。うちもお母さんが大好きやんねぇ、うちフェイって子を例え身籠って、生んで死んだとしても後悔はしないやんね、絶対に生きてフェイって子に逢って見せる」そして、フェイって子に沢山沢山愛情を注いで、今のお母さんみたいに命を繋いでいきたい。お母さんは微笑んでいた。大丈夫、きっと生きて見せる、そして、未来は必ずしも一つじゃないから、生きて生きて……お母さんにフェイを見せてあげたいやんね。


あとがき
お母さん設定がわからなかったのですが、こんな感じでよろしいでしょうか?黄名子ちゃんがちょっとアスレイとの会話に葛藤していればいいなと思いました。


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