カップケーキで乾杯を




(・黒裂くんとお友達になるまでの話)


大それたことは言いたくないのです。しかし、黒裂君とお近づきに成りたいとか(別に変な意味じゃあないんですよ、ただただ、お友達に成りたいと勝手にこっちが思っているだけなんです)やましい気持ちを携えていることは確実でした。ならば、近づいて話しかければいいじゃないか、とかそんな単純じゃないんですよ!彼は本当に凄い人で、サッカー部の主将だし成績も優秀だし皆の人気者だし、兎に角私みたいなのが、視界の周りをちらつくことすら許されないのです!この気持ちわかってくれる人はいるのでしょうか?住む世界が違うんですよ。



購買でお気に入りのクリームパンを手にしようとしたときに、誰かの手が当たりました。よくある事……ってわけじゃあないので、吃驚してその手を直ぐに引っ込めてしまいました。これは、どうぞあなたがお食べくださいという意味も兼ね備えていたのですが、相手はそれを取ってそれを買おうとするどころか私に寄越して言ったのです。「君が先だったと思うよ。クリームパン好きなんだね」なんと、それまで俯いて確認していなかったのですが、黒裂君だったのです!どうしましょう!私なんかが黒裂君からクリームパンを奪ったなんて、噂が広まったら殺されてしまうかもしれません!というか、なんでクリームパンは最後の一個なんでしょう……。私は「有難うございます!」と何度も頭を下げてそれを受け取ることにした。此処で拒絶したほうが悪い方に転がる気がしたからです。



それから、数日後に限定のメロンパンを入手(あと飲み物)後、黒裂君の居るクラスを訪れました。黒裂君を呼んでもらうように、このクラスの友達に言ったら告白?なんてとんでもない事を言われたので首が飛んで行ってしまうくらいにぶんぶんと横に振っておきました。恐れ多くてそんなことできません。というか、黒裂君にはもう、彼女がいるのでは?と思うと「ああ、これも迷惑だったかなあ」なんてことが頭をよぎりました。ブラックホールに飲みこまれるような感覚です。どうしたらいいんでしょうと、またパニックに陥っていた所よばれた本人がご登場しました。私を見るなり「この間の」と言ったので私の事を覚えていてくださったようで、嬉しかったです。



「あの、これ……この間のクリームパンのお詫びです!受け取ってください!」これで辞去するつもりだったのだけれど、黒裂君がくつくつ笑いながら「待ってよ、一緒に昼食でも取ろう」と誘われてしまい、私たちは鍵のついていない屋上の一番日当たりのいい場所で昼食を取ることに成りました。私は今日お弁当なので、パンではありません。「あの、迷惑だったでしょうか?」突然押しかけられて、パンと飲み物を無理やり渡されて逃げていこうとしたのだから迷惑だったに決まっていると自分でも後に成って思ったのだが、これしか方法が思いつかなかったのだ。この間の非礼の。「いや、これから買いに行くところだったから助かったよ。それにこのメロンパン手に入れるの、結構苦労したでしょ」



苦労は半分こしなきゃね、って言って黒裂君がメロンパンを見事に半分に裂いて私にくれた。「わぁ、私初めて食べるんですよ」「それを人にあげるなんて、君はお人よしだね。君、名前は?」「え、えっと……名字名前です」「いい名前だね……えっと」「あ、知っています。有名ですから……いつも見ていました!格好いいですよね!ずっと話しかけてみたかったんです!あ、変な意味じゃないんですよ、」恋人に成りたいとか大それたことなんて思ってもいないし、友達ですらこんなのどうかと思うしと卑屈に卑屈になっていっていたらポンと頭を撫でられた。



「知っているよ、名前さんは面白いなぁ」半分このメロンパンを齧りながら、私は頬を赤く染めてしまった。そんなに面白いことしただろうか?と羞恥を覚えながら。「あの」「……明日も一緒に昼食、どうだい?この後、お祈りもするんだけど」「!は、はい!」「あはは、いい返事だ」不思議と心の内側からぽかぽかと温かくなってきて嬉しくなった。これって、黒裂君のお友達に慣れたってことでいいのでしょうか?自惚れてしまいます。



「黒裂君〜、ノート貸してください〜」あれから月日は少しだけたって、私たちはお友達と呼べる間柄に成りました。本当は名前で呼んでもいいとも言われたのですが、それは女子に目だけで殺されてしまいそうなのでやめておきました。「ああ、名前。いいけど、次の数学までには返してね」数学のノートを受け取った時、ほんの少しだけ心臓がざわめいたのは内緒です。

あとがき
友達に成る〜の過程がちょっとあれだったので、だいぶ端折ってしまいました、すみません。お気に召してくれれば幸いです。黒裂君可愛いですよね。


title 箱庭


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