所詮は安い男
  



「もうやだもうやだもうやだ」何の呪文を唱えているのだろう、ある言葉をしきりに繰り返している彼女にはうんざりと言った言葉がお似合いか。元々、俺は彼女に好意を抱いていて、所謂、一人の女の子として好きという青い春を迎えているわけだ。だけど、気持ちを言ったことは一度も無い。何故ならば名前の思い人を俺は知っているからだ。どう足掻いても今の俺は眼中に入らない。ならば最初から言わない方がいい。「どうしようどうしよう、だって、ユノと同室だよ?!」「そりゃそうだ、女子は女子と同室。当たり前だ」なんでこう当たり前の事を言うのか、早い話名前は彼女が好きなわけだ。考えてみれば、男子と一緒の方がよっぽどこの、学校の風紀が乱れていると思うし、道徳的にもアウトなのだが(因みに、学校側が駄目だと言っているだけで実は交際している男女も居るとかいないとか、噂に過ぎやしないが)。夏場のじりじり照りつける、陽を細い目で睨みつけて熱いと服をパタパタさせて風を胸元に送り込む。その仕草は色っぽくも見えるのにな……、残念だ。



「頭が可笑しくなりそうよ。せめて夏が過ぎてくれないと、ユノと同室ではいられないわ!」だって、あんな薄着で太ももとか発展途上の形のよい胸だとか首筋だとかいい匂いがするだとか色々な素敵な部位がもうとか、女子らしからぬ発言がポンポンと出ていく、名前は親父か。もう駄目だこの人。夏の暑さで頭がヤラれているか、脳みそがアイスクリームみたいにドロドロになって原形をとどめていないのだ、そうに違いない。「このまま一緒の部屋に閉じ込めて私がユノを襲っても学校側が悪いわよね」「どう考えても名前が悪い」なんで学校側に責任転嫁しようとしているんだ、この人。欲望を理性で押さえつけられない名前の方が悪いに決まっているのに。「何でよ、私は何度も部屋を変えろって言っているのよ?それを学校側が、部屋が空いていないからと言っているだけなのよ?」



「それともあれなのかしら。異性だと不純だけど同性なら不純でもいいということなのかしら。ああ、成る程ね、学校側は私たちの事を応援しているのね!」学校も天も神も私の味方ね!と今度は恐ろしい方向へと導きだしている。どうやったらそんな恐ろしい方式が成り立ったのか知りたいような知りたくないような、である。大体、同性でも不純なものは駄目に決まっているじゃないか。おめでたい人だ、本当に。「あーあー、生殺しよね」「じゃあ、長袖を切るように進言すればいいだろう?」名前はその言葉に深く考え込んでしまった。それから、よくわからない言葉を羅列し始めた。要約すると、簡単である。長袖にしたら、太ももとか見られなくなる。でも、長袖にしてくれなければ何れなけなしの理性は吹っ飛ぶであろうという事だ。



一応、理性と本能が鬩ぎ合っているらしい。そして、彼女達にとってどちらがいいのか中々酷な問題であり、難題である。取り敢えずこの人は一人部屋に成るべき人だったという事だけは俺でもわかる。そして、この恋の成就も恐らくしないのではないかと言う所も、だ。そして、お約束、一番この会話を聞いては成らない人物が談話室の会談前で立ち竦んでいて、珍しく弱気な顔をしていた。「……名前、私と同室……そんなに嫌だったんだね。私知らなかった……」ショックを受けていた。あ、あ、誤解だ!と叫んで逃げるユノを捕まえて、この問題を解決するのはまた別の機会にお話しようと思う。割愛、と言う奴だ。


title 月にユダ

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