スローモーションで死は降りそそぐ
  



「名前〜俺たちもう、飯食いに行くからなぁ。席が空いていなくても知らないからな」なんて豪快に笑いながら、今日出来た友達が出て行った。どうやら、私の提出物を出すまで待っていてくれないらしい。知り合って三日目。だからこんなもんなのだろう、扱いも。そもそも数日で友達に成れなど難易度高いミッションすぎるじゃないか、私はリタイアしてしまいたいね。転校してきたばかりだし、まだ何も把握していないのに。ただこれだけはわかる、昼食は現実世界でのある種の戦争だ!というか、ロシウスやアラビスタなどの大きな仮想国が占拠していて、とてもじゃないが、その間を割る勇気も無く。また、ハーネスのような弱小国は昼食を取れる席は無いと思われる。相席をと探すものの、中々見つからない。どうやら、仲間はとっくのとうに食事を済ませたらしく同じカラーの制服の彼らは見当たらなかった。ぐぬぬ、椅子にバッグとか置く人には殺意すら覚えるのだから、自分の感情が怖い。



トレーにまだ暖かなオムライスを乗せたまま、一周してしまった。このままではどんどん冷たくなっていって美味しさが半減してしまう。そう危惧した。見回して、一つだけ空いている席を見つけた。誰もそこには寄りつこうとしない。ああ、そのわずかな隙間に私はどれだけ入りたいことか。その席をジッと、睥睨すれば長い黒髪の、不思議な目をした男子生徒とばっちり目があった、が直ぐに逸らされた。その人は褐色肌の一つに束ね三つ編みにした髪の長い女の子と、色白でやけに格好いい男の子と、それから赤っぽい髪の毛をした可愛げな男の子たちと食事を共にしていた。制服のカラーからして、大国であるロシウスであることがわかった。



勇気を振り絞れ、自分。このままでは食事はドンドン冷え切って、最悪の場合、昼休みは無かったことに成ってそのままウォータイム突入。若しくはご飯は無かったものに成るだろう。「あのー。すみませーん。隣、良いですかね?」「は?なんだ、いきなり」「駄目に決まっているだろう」褐色肌の女の子と、顔だちの整った男の子が敵を見るような目つきで睨んできて、あっちへ行けと追い出そうとしてきた。ああ、酷い。ロシウスにトラウマ持っちゃうよ。まだ、出撃したことが無いから、実は怖さも何も知らないのだが。「このままだと昼休みが無くなるか、昼食を食べられないかの二択なんです。見ての通り、ロシウスの生徒たちなんかが、食堂占拠して私食べられないんですよ!」このままだと初めてのウォータイムでやられてしまうと、涙ながらに訴えかければ、黒髪の少年が呆れたように溜息をついて、空いている隣の席に座るように促した。「あ、有難うございます!」「いいんスか?」「……仕方ないだろう。ロシウスの生徒の多くが占拠しているのは事実だ。確かに敵である仮想国との食事などは好ましくないが、何も腹に入れられない方が可哀想だ」流石に同情してくれているらしい。「どなたか存じませんけど、助かります。あー、お腹減った」



と、彼らが私を残して去ろうとするので私は慌てて引き留めた。「待ってくださいよ、此処は貴方達の席だから私のせいで、居なくなる必要は」「俺たちはもう食べ終わったんだ」……まあ、いいか。一人で寂しいなぁと思ったけれどやはり敵国同士だから、あまりよろしい光景じゃなかったのだろうと諦めた。去り際に、黒髪の少年が振り向いて不敵に笑みを浮かべた。面白い奴だなと言わんばかりの表情だったが、そこまで非常識な態度を取っただろうか?と少し心配に成った。



あの光景を仲間に見られていたらしい、還った途端に包囲されて皆に詰め寄られた。情報を漏らしていないかとかそういう事か?!と思ったので違う違うと慌てて否定したのだが、どうやらそこではなくて「法条ムラク……バイオレットデビルの隣に座って飯を食おうだなんて、お前って肝が据わっているよなぁ。目を付けられたと思うぞ?!ウォータイムであいつにあったら、ロストは免れないなぁ」速攻、退学宣言きた。マジかよ……と顔を青ざめさせた。そんな凄い人なんて知らなかった、というか、そんな恐ろしい異名を持つ人だと知っていたら、バッグを置いて席を占領していた輩のバッグを蹴落として隣に座っていたくらいだ。目を付けられたなんて死んでしまいたい。



今回のウォータイムは前回の続きだったので、私は出撃することなくバイオレットデビルとやらにも勿論遭遇しなかった。次に逢ったら、絶対に謝り倒してやる。



次に逢ったのも食堂だった、二度目の遭遇に彼は然程驚いた様子も見せずに、取り巻きの彼ら(彼女)もまたか、と溜息をつくばかりだった。私はずんずんと近づいて、九十度の角度でお辞儀をした。「この間はすみませんでした!私、貴方がバイオレットデビルだとか呼ばれている凄い人とはつゆ知らずに、隣で食事を取ろうなんて!いや、本当そんなつもり微塵にも無かったんです、本当です。私は転校してきてまだ、一週間も経っていないんです。どうか見逃して下さい、もう二度としませんから!」もう涙出てきちゃうよ。そのままの体制で数秒待ったけど相手は皆かたまっているらしい。そっと頭をあげて、見ればムラクさんは不愉快そうに(がっかりというか、詰まらなさそう?)顔を顰めていた。がやがて、また一人座れる空白を作ってくれた。「座れ。今日も、座れる席は無いのだろう」……この展開は予想していなかった。くぅ、確かに謝っているすきに、席は埋まってしまったけれども。更に目を付けられ……、いや、待てよ、今ここで逆らったら余計に目を付けられ。八方塞、雁字搦め……この事か。私はまた、彼の隣に座った。今度の彼らは立ち上がって、何処かへ去る様子を見せなかった。


title エナメル

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