置いてけぼりフレンズ
  



あたしの友達が、バンデットの襲撃によって機体がロストしてしまった。ロストはすなわちこの先にあるものが退学でしかない。精一杯足掻いたけれど、ロストは免れなかったそうだ。あたしは幸いなことにロストしていないが、嬉しくなかった。素直に喜べなかったのだ。こんな気持ちは初めてで、らしくもないのだが、泣いてしまいそうになってしまった。ミハイルもカゲトもムラクも皆何も言わない。ただ、一同に口を結んで下唇を噛みしめているだけだった。



「ごめんね、バネッサ。ロストしちゃって」もっとバネッサの傍に居たかったなぁ、とか守りたかったなぁとか感慨深そうに、言った。あたしはそんな柄じゃないよと言えば、そうだったねと寂しげに笑った。それから、名前はこの古い日本を模した風景を眺めてもう見納めだねと、呟いた。永訣じゃあるまいに、何故涙がこみ上げてくるのだろう。喉や目頭が熱くて仕方ない。それでも、泣かないのは私の最後の意地なのだろう。かわりに、名前がポツリと涙を流した。「ああ、バネッサは泣かないのに、ね。私とっても悲しいの。バネッサと別れなきゃいけないのがとっても辛いの」



この学園に来てから、初めてできたお友達はバネッサだった、それから一緒のお部屋で一緒にお菓子を食べて一緒に遊んで、たまにスワローでパフェなんか食べて、一緒に帰って、一緒にバトルをして、お互いを高め合って。全て全てバネッサとの思い出だけで埋め尽くされていて他の人の入り込む余地などない程に、私はバネッサが好きだったんだと思うの。どうして、そんなことを言えるのか、私にはわからなかった。なあ、これが最後じゃないんだろう?名前とはまた、必ずどこかでひょっこりと逢える。それから、久しぶりだねって会話を弾ませてまた、一緒に美味しい物でも食べながら、遊ぶんだ。



「ねぇ、バネッサ、私本当は」ボォーと汽笛が鳴り響いた。他のロストした生徒たちがドンドンと大きな船に大きなキャリーケース一つ引き摺って乗り込んでいく。名前がハッと現実に引き戻されたように、夢から醒めてしまったような顔をしていた。それから立ち竦んでいた名前がゆっくりと私を一度きつく抱きしめた。「……なんだ、名前」何が言いたかったと聞いたけれど名前は私の制服を濡らしただけで答えなかった。「きっと今のは言っちゃいけなかったんだと思うの、だから、さようなら、バネッサ、さようならをしよう」抱きしめていた腕を離せばフローラルな香りが鼻腔をすり抜けていった。あとは海の匂いだけが占めた。



いってはいけない事とは何だったのだろう。お星さまに願う事も神様にも懺悔するのも許されない事だったのかもしれない。例えば、私が抱く感情と同じような物を抱いていたとしたら、その、腕を、体を離すべきではなかったのだ。ああ、永訣ではないのに、涙が零れ落ちていく、はらはらと。零れ落ちていく。


title 月にユダ

戻る