小鳥たちは鼻で笑う
  



「キョウジ君はね、口が寂しいんだね。そういうの、前に心理学で習ったよ」意味わからねぇ、俺は心理学とか興味ないから全然わからないけど。オーバーロードも使うし体力の消耗も激しいから糖分補給って意味も込めて、キャンディーを食べていたんだけど、俺は口が寂しいんだろうか。屋上の陰で寝そべったまま、何処までも続く青空と、ゆったりとした速度で流れていく雲を瞳でそれとなく追いかけた。「あー、そうかい」「そうだよ」俺はそんな話題興味ねぇ、さっさと終わらねぇかなという意味を込めてこんな適当な返事を返したのに、奴はやけに愉快そうに歯を見せて笑った。



「でも、ま、煙草とかお酒とかに走ってぐれなくてよかったよね。キョウジ君って見た目グレまくっているからきっと、そういうのやっちゃっていると思っていたんだよね」なんだその偏見。確かに両方やったことないと言えば嘘に成ってしまうかもしれない、興味本位で一本だけとか一口だけとかお子様の考える可愛らしい範疇だ。きっと何処の餓鬼だってそれくらいはやっているさ。余程厳格な、親を持たない限りはな、こっそりと。「煙草は煙いから嫌いだ、酒も特にうまくねぇから嫌い。このキャンディーが俺には丁度いいんだよ」



俺ってお子様。でも、あと二年は待たなきゃいけないんだから間違っちゃいない。大体、偏見を持たれるような外見だからって、本当に名前は失礼な輩だと思う。そういういい子ちゃんに限ってやっちまっているんだ。そうに違いねぇ。と今度は名前に疑いのまなざしを注いだ。「私はやっていないよ」「へぇ、いい子ちゃんだよな。むかつくくらいによォ」一口もやっていないのかよ、と思ったけれど身の潔白をしつこいくらいに訴えてくるので、表面上は信じるふりをすることにした。



「で、さっきの続きなんだけど」「まーた、心理学談義かよ。俺、心理学は」「いいからいいから、実は私もよく覚えていないしね」じゃあ、デカい口叩いて知識を衒おうとするなよ阿呆が。と思ったところで、俺の口から棒付きのキャンディーを何の断りもなく、引きずり出して取り上げた。予測していなかったのでそれは簡単に奪い去られてしまった。「おい!」怒鳴りつけて返せ、それはまださっき封を開けたばかりなんだと怒りを露わにしたがすぐに名前が俺に口づけて黙らせたのだ。「口が寂しい時は、私も使っていいんだよ。あと、このキャンディーは貰ってもいいかな?」そう言って、恥じらいも何も無いように、俺が先ほどまで舐めていたキャンディーを口に含んでさっさとどっかへ行ってしまった。もう顔も見えない。「っつたく、」口元を抑えて、俺は拭う事もせずに歪めた。「あーあー、もう口が寂しくなっちまったなァ、名前チャンよぉ。責任は取ってくれるのかなァ?」飴が無いせいか、はたまた、名前のキスがもう恋しくなったのか。随分と両極端で、可笑しな答えだけが残っている。やはり、俺は口寂しいのかもしれない。常に何かを口にしていたいし。くだらねェ。


title エナメル

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