メレンゲの泡に溺れる
  





ああ、やっぱり!とか耳障りな声で、絶叫するので俺はどうしたんだ?と面倒くさがりながらも彼氏面をするのだった。名前の手には、はちみつを溶かしたような色をしたシャンプーの容器と、リンスの容器が握られていた。それで、事の次第が大体分かったのである。「……キョウジ、これ使っているでしょう?!最近いい匂いするなぁと思っていたらやっぱり!なんか減りが早いんですけど?!」「うるせぇなァ。別にいいだろう少しくらい」減るもんじゃないしと言おうと思ったが明らかに減っているので言わなかった。でもそんなに何回もプッシュしていないし量もたかが知れていると思うのだが。やはり、減りは一人で使うのと二人で使うのとではスピードが違うのだろう。「何で使うの?!キョウジには必要ないでしょう!」「どういう意味だ!」「だって、……ねぇ」視線は頭に注がれる。サイテーな女だ。「……うっわ、軽蔑するぜ。そうやって、彼氏の頭を見てそんなことを平然と言ってのける名前チャンには軽蔑するぜ」



「水洗いでいいんじゃない?」本当にシャンプーなんて必要?と俺の頭を撫で付けるので俺はそれを手加減なしに振り払った。「臭くなるだろうが!」「飴ちゃんが臭いを消してくれるよ!」「うぜぇえ!!」「じゃあ、少し譲ってシャンプーはいいとして……リンスは必要?」えっ、俺の頭には必要ないのだろうか?自分の髪の毛に優しいだろうと思って使ってみたのだけれど……。名前が確かめるように俺の頭を勝手に触ってきて撫で付けた。うざいのですぐに手を退かせる。あーうぜぇ!「……本当に必要だろうか、触り心地はちょっと柔らかい気がしないでもないけど」「うるせー!いいからさっさと頭から手を退かせよ!」俺の頭を堪能している名前がうっとりと頬を緩ませていった。「例えるならば、柔らかい草原の草のようだね」「そういう例えいらねーから!」そういうの求めてねーから!慣れない詩人の真似事は止めろ、きしょくわりぃ。語彙が無いから、薄っぺらさが際立っちまっている。あーあー。残念にも程がある。



「っつか、シャーロットちゃんにねキョウジと同じにおいがするって指摘されたんだけど、どうするよ」「知るか。たまたま、同じシャンプーとリンスを使っているだけだとでも言っておけば納得するだろう」偶然に偶然が重なってしまったよくあるよくある。事実は小説より奇なりって言うだろう。あれだよあれ。大体この島は、売っているものだって似たか寄ったかじゃないか。とか適当にさばいていたら、名前の奴殴ってきやがった。「そんな偶然が通用するとでも思っているのかキョウジ!」「じゃあ、本当の事でも言えばいいだろ。いい加減この話題は飽き飽きだ」この話題はもうおしまいだと切り上げたつもりだったんだけど名前はまだ、ぎゃあぎゃあ騒いで煩かった。一喝しても凄んで見せても、日常茶飯事だと言わんばかりで、こいつの場合は効果が無いので放置の方針に成った。俺は甘いものは嫌いじゃない、シャンプーの妙に甘ったるい人工的な香りも、様々な味のする飴も。それから、


title リコリスの花束を

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