彩度を落としておやすみ
  



若干15推くらいの描写。



夜に紛れる、息と気配を殺せば誰にも見つからないと思っているし、見つかるつもりは毛頭に無かった。名前に逢いたいという気持ちよりも先走るセレディへの復讐心。俺は、セレディに雇われていただけの傭兵だが、もう何処にも行くあては無かったし、帰る居場所も無い。元々俺にはそんな場所無かったのかもしれない、ただ、名前の隣だけは陽だまりのように温かったのだけを記憶している。無性に苛立っていて、今は誰彼かまわずに破壊してしまいそうなその破壊衝動だけを抑制していた。ガリッ、イラついたときに飴を噛んでしまうのはいつものことだ。粉々に砕けたそれを舌で慰めるように溶かした。



漸く俺を探している奴らの気配が消え失せた、どうやら此処にはいないと踏んだらしかった。馬鹿で、間抜けな奴らだと鼻でせせら笑いながら砕けた飴の代わりにもう一個、飴を出して口に入れた。それが俺のあまり好まない味でまた、苛立った。何でこの味のキャンディーがポケットから出てくるんだと。また、誰かの気配がして俺は気配を殺し伏せた。絶対に見つかってたまるか。俺がある目的を達成するまでは、絶対に見つかってやるものか。と思っていたが、暗闇に慣れた目がそれはよく、見知った人物だと知って少しだけ警戒を解いた。名前だ。



きっと頑張って抜け出して、俺を探しに来たのだろう小さく「キョウジ君、いる?」なんて独り言のようなもので俺へ呼びかけている。その様子があまりにも滑稽だったので少し見ていようと思ったが、次第に此処にいないと思ってしまったようで、此処から出ていこうと踵を返したので慌てて声をかけた。「俺を探しているのか、名前チャン」「!きょ、キョウジ君。いつから」「最初からだ、お前の様子が馬鹿みたいで面白かったから放っておいたんだぜ」からかうようにいつもの調子を作り出しながら、一定の距離を保ったまま名前を見下ろした。名前はそれでも俺の調子がいつものものじゃないと悟っているらしくて、酸素不足で喘ぐように顔を歪ませた。「不細工な顔するな」



「だって、キョウジ君が」「うるせぇなァ。お前は早く帰れよ、俺と一緒に居るのなんて、見られたらお前だって危ねぇんだぞ」お前は弱小国と言え、俺たちと対立しているのだから。「……早くいかねぇと襲うぞ。俺は今すげぇイラついているんだ」じりじりと間合いを詰めていく。それは虎視眈々と草を食べている弱い獣を狩ろうとする肉食動物に似ていて、だけど、それと違うのは名前は危険を察知する能力が低い所と俺が本気だってことを知らないってことか。くつくつ、笑いが込み上げてきた。ああ、本当に無茶苦茶にしてやれば少しは気が張れるかもなぁ。なんて八つ当たりしてやろうって気すら起こる。そんな嗜虐心を煽られるのは、名前がそんな悲しそうな顔をしているからだ。そうに決まっている、名前の泣き顔は何時だって欲情を掻き立てられ、芽生える。



「いいよ、それでキョウジ君が苦しいの無くなるなら、いいよ。それで本当にキョウジ君が」間合いは完璧に詰められた。嫌いな味の飴はまた噛み砕いて飲み込んで棒を捨てた。そして勢いに乗じてガブリ。唇に噛みついてやった。その後に柔らかそうな二の腕、首、鎖骨と噛んでいった。「俺は言っておくけど本気だ」本気だという証拠に、跡が残るくらいに強く強く噛んでやった。なのに、名前は苦悶の表情を浮かべ、痛みによる脂汗を浮かべるばかりで逃げ出そうとはしなかった。あーあー。なんで俺の忠告を聞かないんだ、こいつって本当に馬鹿だったんだなと思い俺は。「逃げろよ」じゃないと、本当に食っちまうんだからな、


title Mr.RUSSO

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