世界がそれを赦さない




争覇モードで女君主。判断はお任せだけど間違いなく絶望的。



「終わりだな」女の吐息と、それから呟く声が聞こえた。城の中はまだ攻め込まれていないが、この騒々しさからして時期に突破されるであろうことは容易に予測できた。この空間だけがやけに湿っぽい空気で、戦などから切り取られたようであった。隣で俯き加減の鍾会が「まだだ、……この私が、敗北など、」と呟いた。その脆い自尊心も突き付けられた現実を前にして、砕けてしまいそうだった。名前はただ首をゆるく振るだけであった。「終わりだ、鍾会。私の描く天下はどうやら、夢物語に成るようだ」



戦況は絶望的だ。恐らく天地がひっくり返っても、軍神が居てもこの戦況は覆せないだろう。多くの将が散りまた、投降してしまった。「……時期に此処も破られるだろう。鍾会……これ以上の足掻きは無駄だ」「まだだ、……まだ、勝機はある。英才教育を受けた私が、」ぶつぶつとあの拠点の防御が手薄だ、相手は油断をしているから突っ込めば虚を突けるだの瞳を歪ませて様々な策を提案する。現実から逃避しているようだった。名前は穏やかな目でそれを見つめた。「鍾会。頭がいいお前だからこそ、私よりわかっているはずだ。全軍が包囲している。もう逃げ道はないぞ、鍾会」「くっ、」この私が、この私がこのような場所で果てるなんてとわなわなと恐怖からか、それとも野心と怒りからかその手は小刻みに震えていた。



「武器を手に取れ、鍾会」「私に自害しろとでも言いたいのですか……それとも特攻ですか?勝ち目がないと言ったのは貴女ですよ」いつも近くをふよふよとどういう原理で浮いているのかわからないあの、いくつもの剣たちは地面に落ちて役割を果たそうとしていない。鍾会もまた、それを手に取ろうとしなかったが無理やりに名前が握らせた。「何も敵を切る為だけに武器があるわけではない」「……やはり、それしかないのか」鍾会が泣きそうな目で名前を見たが自害しろとは言っていないと宥めて言った。「降伏しよう、鍾会。だが、恐らく手土産が必要だ。何も難しい物じゃない」私の首を切って奴らに渡せばいい。そうすれば鍾会、お前だけは助かるかもしれない。



「馬鹿なことを言うなよ!」怒気を含んだ強がりな声は何処までも響いたが、涙交じりでどうしても悲痛に聞こえてしまう。きっと言葉が通じない異国の者が聞いてもそれは悲痛な叫びにしか聞こえないだろう。「私は本気だ鍾会。私を生かす利益があると思うか?お前は野心が強いが、賢いからきっと大丈夫だ、重宝されるだろう」「私の名に傷がつくじゃないですか、生きたいがために君主の首を……自分の妻の首を差し出しただなんて。生涯、死んだ後もずっと私は非道だと罵られるに決まっているじゃないか」「……仕方あるまい」遠くであれだけ頑丈に閉ざしていた扉が無理やりに破壊された音が聞こえた。それから、大勢の兵の歓声、怒声が、足音がドンドン近づいてくる。此処にたどり着くのも恐らく然程時間はかからない。



「……時間が無いようだ、鍾会。別れを惜しむ時間も無いな、ははっ。後悔しているか鍾会、私と契りを交わしたことを、私のもとになど留まったことを、鍾会……後悔しているか」言われなくともわかるぞ。さぞや、後悔しているだろうな。才に恵まれたお前がこの私のせいで負けるのだ。そして、私を裏切り私の首を敵に差し出したと永劫に言われ続けるのだ。「この私が選ぶ道に、後悔や間違いなどないね」鍾会は汗ばむ手をぎゅうと握りしめて、後悔していないともう一度言った。剣は未だに名前の首を落とすそぶりさえ見せないが名前は覚悟を決めたように瞼を下ろして鍾会に言った。もう名前の目には戦況も鍾会すらも見えなかった。あとは鍾会が腹をくくるだけであった。名前はきっと抵抗はしない。準備は整ったのだ。「そうか、嬉しいよ鍾会。……これでさようならだな……、すまない本当にすまない。……それでも、私は愛していたよ士季」素直な気持ちと、それから。「……私も、だ」震える唇で君主の彼女に口づけた。恐らくこれが最後となるだろう。鍾会の施す口づけはいつだって、手慣れていなくて随分と幼く、子供がするようなものだったけれど慈しむ気持ちはいつだって伝わってくる、だから名前はそれでよかった。






鍾会は足掻くことに決めた、おまけ。


「ふん、そんな汚名を背負ってまで生きたくないですね。ほら、さっさと貴女も剣を構えてくださいよ」鍾会が剣を宙にふわふわりと浮かせて、横に広げ攻撃の構えを見せた。「……鍾会らしいな、ただでやられる気も、私の首を差し出す気も無いか。ははっ、面白い。では、やるとするか、負け戦をな」チリチリ、床が傷つくのも気にせずに大儀そうに、されども何処か面白そうに身の丈ほどの剣を引き摺った。どうやら、それが彼女の最もなじみのある得意な武器であるようであるが随分と大きく、彼女の顔にも体にも似合わなかった。ブンと前に振り下ろして迎撃をする体制に入る。「……迎撃しますよ」「ああ、任せろ。鍾会のことはこの名前、命尽きるまで守ってやろう」兵がこちらに押し寄せてくる。地響きがしそうなほどに大群である。それを見て鍾会が鼻ではっ、たかが二人を殺すのに大げさだねと笑った。「ふ、ふん。英才教育を受けた私には必要ないね。精々私より先に死なない事だね」「そうか、それは……頼もしいな。まあ、その時はその時だ」


title 箱庭



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