つれていくなら煉獄までも




人殺し表現と歪み。エンパで無邪気っこ設定。



煌びやかな、着物に身を包んだ名前様がクルリと一回転して見せた。細かな装飾が施されたそれは、ちょっとや、そっとの値じゃ買えないことをすぐに理解した。名前様は無邪気な笑顔で私に問う。聞かなくてもわかるようなことを問う。「えへへ、どう?張遼、似合うかな?」「ええ、とてもよくお似合いです。名前様」私は細い目を更に細めた。名前様は嬉しそうに笑う。この方は純粋なのだ。穢れをしらない。穢れを持ち込む輩にも純粋に接する。「今日も宴を開こうと思うの!お酒とーっても美味しいよっ!」何処から、金が出るのか。永遠なんてないのにそれでも笑う。国民は金を生む、搾り取り踏み散らかす。逆らうものは私の武器の、餌食になってもらった。「左様ですか。しかし、飲みすぎはよくありませんぞ。二日酔いになられては大変です」「うん、わかっているよ!今日はね、張遼の大好きなお酒を出すから沢山飲んでね!」遠慮は駄目だよ!と言う。ええ、貴女が言うのでしたら私はいくらでも飲みましょう。



「それよりね、張遼。私、呉が欲しいなっ!此処は山に囲まれていて、お魚が食べられないんだよ!張遼さえ居れば、きっと呉だって簡単に取れるよ!」確かにわが国は山に囲まれていて、農産物には恵まれているが魚等の海産物はまるでない。それに比べ、呉は……大きな海がある。大層、羨ましそうに名前様が美しい顔をゆがめた。「……呉、ですか?しかし、あそこには……(……強い将も、優秀な軍師もいる。)いえ、必ずや名前様のために」「じゃぁ、武器とか色々作んないと!兵糧も何とかしないとね……!張遼お願いね、信頼しているよ」名前様は笑う、無邪気に笑う。信頼だなんて、勿体無いお言葉。必ずや、この張文遠貴女のために。



兵糧を確保…か。早く徴収しなければならないのに、渋る不届き者がいるそうだ。私を信頼しているという名前様のご期待にお答えせねばなるまい。渡す気がないのであれば、殺してでも奪い取るまで。呉を潰し、果ては名前様の名をこの天下に轟かせるがため。名前様の一番は私なのだ。彼女のためならば、私は何だってする。「さあ、早く食料を出すのだ」武器を抱えた私に脅えるように、民は後ずさる。着物は、名前様とは対照的にボロボロだった。「い、いやだ!殿様はおらたちを殺すきだぁ!このままじゃ、おらも子も食っていけねぇ」後ろには粗末な武器と、農具を抱えた民たち。私に歯向かう気のようだった。勝てるわけもないのにだ。私は場数を踏んでいる。「出さぬというのであれば、此処で斬る」私が武器を構えると、民たちも武器をその汗ばむ手で握り締めた。武人の私に勝てると思いか?否、ありえぬのだ。私は戦に慣れているが、民は慣れていない。武器を軽く横に振ると、一人の男の首が飛んだ。宙を舞うそれと、血飛沫。それが顔や武器にべったりとついた。スローモーションに落ちて行くそれが地面に一度跳ねて、地面に転がった。苦悶を刻んだ胴体のない生首。一瞬の出来事だった。私に躊躇いはなかった。切れ味の良いそれは粗末なそれとは違う。人々は、声を漏らすことも忘れてそれを唖然と見ていた。「ひ、人殺しっ!!」武器や農具を構えていた民たちが蜘蛛の子を散らすように悲鳴をあげ逃げてゆく。人々の嘆き苦しみ悶える声は、私にも名前にも届かない。



「わぁーい!おかえり、張遼〜!」血飛沫を浴びている私に気も留めずに、手を振る。外で待っていてくれたのだろう。真新しい着物を羽織っている。「ただいま帰りました」私を労わる手に微笑んだ。私の手は血塗れだ、この手で反乱を企てる同僚すらも殺した。名前様と、私の未来。何者にも邪魔立てさせるつもりはない。きっと、私は地獄に落ちるだろう。非道なことをしているという自覚も何もかもがある。名前様には、直接手を下させたくなかった。血に塗れるのは私だけで十分だ。「さ、宴を開くよ!張遼!」私の手を引く、名前様の手は折れそうなほどに細い。「はい、名前様」ただ、最近不安なのは……私が死んでしまったあとに名前様の味方がいるか、だ。私は名前様を裏切ることはないが、他のものは裏切るかも知れぬ。名前様は人を疑わない、だから私がそのもの達を排除してきた。最近は死ぬのが怖い。名前様が殺されてしまいそうで怖い。



「どうしたの張遼。難しい顔して」どうやら、難しい顔をしていたらしい。自覚がなかった。私の顔を覗き込む名前様が愛らしい顔を曇らせた。そのような顔をなさらないでください。私は、貴女にそのような顔をされるとどうしたらよいかわかりませぬ。「何でもございませぬ」貴女が笑ってくれるのであれば、どんな非道なことも、人を殺すことすらも厭いませぬ。どうか、笑ってくだされ。名前様。「そっか、いっつも頑張ってくれる張遼が大好きだよ!」名前様は無邪気に笑う。それは、愛の言葉と受け取っても構いませぬか?私は勘違いしてしまいますよ、名前様。ええ、私も貴女を愛しております。全ての国を敵にまわしても、貴女だけを。



title.月にユダ


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