鈍色の空に憧れて




深海にて情死

夜明けとともにやってきて、喉笛を噛みちぎる。ヒューヒュー漏れる声に成らない声はきっと、この世の中で一番、愛しい物だと思うのだ。朝目覚めると必ず貴方は、もう何処にもいない。情事は、まるで幻視、夢であったかのように。ただ、残り香を残して。他にも側室や妻がいることを私は知っている。私は彼にとって何番目の女なのだろう、そう考えると虚しさだけが、体を支配して、何者かに操られているかのようにぎこちない動きしか出来なくなる。ただ、こうして会いに来て、抱いてくれる。それだけで、幸せだと思わないと駄目なのに、(だって、貴方には他の女がいるかもしれないけれど、私には貴方が世界の中心で、全てである、ああ、狭い鳥籠の様よ。それも翼をもがれて何処へも行かせないようにと、観賞用の)



貴方が来るのは次はいつに成るのかしら、気が向けばやってくるから、本当にわからないの。連続で来る日もあれば、はたまた一か月とそれから、ちょっと来ない時もある。ただ、愛の言葉も言わずに私を寝台に寝かせては、情事を交わす。それだけ、本当にそれだけ。私は何の為に居るのか、彼の何なのか(側室よ、そうよ)わからなくなるの。男の人は何であんなに、沢山の女性を囲えるのか不思議。女の人は窮屈だと思う、自由は無いけれど、暮らしを保障されている。それを幸せと捉えるかはその人次第だけれど、私には少々窮屈に感じられるのよ、この檻の狭さが。



珍しく彼が連日、私の元へやってきた。これは稀なことである。彼は気ままに自由に行き来するから、私は驚いてしまった。準備も怠っていたので直ぐにお相手は出来なかったが、曹丕様はあまり気にしていらっしゃらないようだった。嘘でいいのです、真でなくてよろしいのです、行為の最中だけは私だけを思って考えて名前を呼んでほしいのです。その我が儘を受け入れてくれ今日は名前を呼んでもらえた。曹丕様は私の物ではない(烏滸がましいわ)だけれども、行為の最中だけは私の事を心の片隅に置いてくださいませ。そう願うのです。



やはり、昨日のは幻視か。残り香だけを残して、曹丕様は居なくなってしまった。そのほかには何も残っていない昨日の情事を思い出させるような独特の空気があるだけだ。虚しさを心に抱えながら私は今日も曹丕様が私の元へ参ってくれるように願うだけである。


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