声帯






張遼さん人殺しだし割と歪んでいるしで注意


「どうか、この私に声を聞かせてくだされ、」甘ったるい声で何処か、恋い焦がれたような瞳で見つめて、私に希う。私は声を上げなかった、悔しさでただ唇をきつく噛みしめ結んでいる。だけど、張遼殿は怒らない。また、細められた瞳と優しげな声色で再三に「声をどうか聞かせてくだされ」と促した。これではまるで恋人にかけるような言葉じゃないかと思った。だが、この場には酷く似つかわしくない。血の臭気がプンプンと立ち込めていて、辺り一面血の海に成りそうだ。



「どうして、」たった四文字の小さなか細い、他の声や雑音にかき消されてしまいそうなほどのものだった。だけど、張遼殿にはきちんと聞こえていたようで、嬉しそうな顔が涙の膜の向こうで薄らぼんやりと見えたのだった。「ようやく喋ってくれましたな。貴女を殺す前に一度、聞きたかったのです。ああ、ずっと焦がれておりました……」私の一族はもう私を除いて皆、死んでしまった。誰のせい?私のせいではない。ただ、私の夫がどうにもよくない事を企てたばかりに一族郎党皆殺しに成ってしまったらしいのだ。



「ああ、貴女を処断せねばならないのがどうして、このように惜しく感じられるのか。ああ、貴女が我らの脅威に成るなど思えませぬけどな……貴女の声は忘れませぬ」私の心の中で未来永劫に生き続けましょうぞ、そういって、己の武器を私の目の前に突き付けた。私の夫を切ったであろう、その、残酷な形をした武器は未だに生乾きの血を付けたままで私は、顔を顰めてしまった。張遼殿はくく、く、とこらえきれずに笑っている。何がそのように面白いのだろうか。私はこれから、死なねば成らないというのに。



「せめて、痛みのないよう殺して差し上げましょうぞ、貴女が苦しむ姿など私は見たくありませぬ。それから、貴女の遺体は私が何とか言って手厚く葬って差し上げましょうぞ。ああ。貴女を殺せること幸福に思いますぞ、しかし、天にあるという桃源郷にて貴女と貴女の夫が魂までも永遠に一緒だというのであれば、私は許せなく思います。どうかどうか、私を許さないでくだされ」そう言って漸く、それが振り下ろされた。痛みは確かに無かった、



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