いつかまたって言ったでしょ?




諸葛誕は帰ってこない。


私は戦場に立つ人間など好かない、地位のある殿方に好かれ私を望んでくれるのは喜ばしいことだろう。だが、私はそれを良しとしなかった。私は武人では無いので、前線に立つことなどないので平気だとおっしゃるが、それでもいつ死ぬかなんてわからない。ある人の言葉をお借りするのであれば天命には抗えないという事なのだ。武人じゃなくても、罠などがあっていつ命を落とすかわからない上に、戦場に出る事には変わりがない。だから、戦場に立つものは好きに成りたくないのだ。



「名前殿、」諸葛誕殿の声がする。あ、あ、やめてくれ。雨に打たれている可哀想な犬のように下から見上げてくる。身長自体は私より高いのにいつも、目線は下からだ。決まってそうだ。「矢張り、私の求婚を受け入れて貰えぬのは私に才が無く諸葛の名を汚し、狗と蔑まれているからだろうか?」「違います、貴方が諸葛の名を汚しているとは私には思えないし、貴方には民を考えて行動してあげられる、人の事を考えてあげられる、人望があります。ゆえに私は狗などと思ったことがありません」何故にそのように卑屈に成れるのか、それは周りの評価のせいなのだろうか。そもそも、狗は蔑んでいるわけではないのだが、彼は理解していない。同じ諸葛の者が龍などと例えられているから、霞んで見えるだけだ。



「ならば、何故……ああ、私には狗と呼ばれるものの妻に成るのが嫌だからとしか思えぬ!」狗の妻、何となく嫌な気がしないでもないけれど諸葛誕殿自体は出来た人間なので(融通が利かない、頭が固いという点を除けばだが)嫌なわけが無い。「死なれるのが嫌なのです。戦場に立つ人間は、戦場に立たない私を置いて死んでしまう。それが嫌なのです」例えば、家で待つのは苦痛だ。ちゃんと生きているだろうか、怪我はしていないだろうか、捕縛されてなどいないだろうかなどと考えるだけで胸は圧迫されたように苦しくなるし、考えたくも無い。考えるのを放棄したくなるのだ。だけど、それは起きている間中に私を苦しめるだろう。否、こうして諸葛誕殿に思っていただいている時点で、私はもう彼の事を心の中にとどめてしまっている。死んでほしくないと思っているのだ。



「そう簡単には死なぬ、私を信じてください」「不安なのです」私の気持ちを少しは汲んでください、どうしてそのような目をなされるのだろう。まるで私が悪人にでもなったかのような錯覚すら起こすのだ。「では、次の戦で戦功をあげ、無事に無傷で帰ってきたら私の願いを聞いてくださいますか?」それは一つの取引だった。安心材料には成るのかもしれない、もしも諸葛誕殿のおっしゃるようなことが起きれば、私は本当の意味で彼を信頼してもいいと思った。



「嘘つき」ポツリ零れた言葉は、喧騒にかき消された。流れる涙が、私も諸葛誕殿を愛してしまっていたという事を物語っていた。これだから、戦場に立つ人間など好きに成りたくなかったのだ。成りたく、無かったのだ。

title Mr.RUSSO


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