汚れた戯曲の終わり方




我ながらに詰まらぬ人生だと思うのだ。女の人生など、たかが知れていて。素敵な殿方がいつか迎えに来てくれるなどという、下賤な者が思うような卑しい事を思っていられるほど乙女にもなれやしなかった(そんなの嘘っぱちだ、都に来てみれば見るほどに)。煌びやかで豪奢な暮らし、さてさて、それで心までも満たされるのだろうか?と甚だ疑問である。母からの手紙はいい加減に孫の顔が見たい等と随分と直球なものに変わり始めていた。それもそうだろう、私はわざとらしいともいえるほどに大きく溜息をついた。最近は、母からの手紙を見なくても内容を透視できるような気がするのだ。ある種の、妖術かもしれない。



母からの手紙を卓上に見ずに放置していたら陳宮殿がいつ入ってきたのか、寒い、寒いですなぁ。なんて言いながら室内だというのに白い息を吐き散らしながら手をすり合わせていた。「不法侵入です、私が着替えていたらどうするんですか」「いやはや、手厳しいですなぁ、名前殿。ですが、ですが、私は貴女の予定などは見通しておりますゆえ。心配なさらなくて結構ですぞ」彼の癖なのか胡散臭い演技がかったような口調で、この時間帯は机に向かっているかと。とこれまた胡散臭く笑って見せた。「だからと言って、勝手に入るのはどうかと」至極まっとうな事を口にすれば大げさな礼をして「ああ、それはそれは、失礼致しました」と言った。これだから、軍師は嫌いだ。頭だけはよくて狡賢くて、相手の裏をかいたり、策を練るのが仕事だから仕方ないのかもしれないが。私と正反対の生き物であるのは、違いが無い。私はただ、只管に武を振るい、道を空けるのが仕事なのだから。



「しかし、此処に乗っかっている、書は読まれなくてよろしいのですかな?」密書だとか怪しんでいるのだろうか、軍師様は。と呆れながらも、母からのそれを訝しげに見つめる軍師様を落ち着かせるように言った。「それは、母からです」「成る程、成る程。で、何故に読まれないのですかな?」何処までこの人は私の領地にずかずかと土足であがってくるのだろうか。いい加減にしてほしいと思いながら私は答えた。「最近は早く、孫の顔が見たい等と同じことしか言いませんゆえ、見飽きました」どうせ、これも同じことしか書かれていませんよ緊急のようならば、届けた女官もそういうだろうしと息を零した。



「ほぉ」ようやく全貌を把握したようで、頷いて手を口元に翳して軍師様が何か企んでいますっていうような顔をした。策を練っているようにも見えるけれど今はきっと違うだろう。予測だけど、策を練っているのだとしたらここから出て言って然るべき場所で練ってほしいというのが私の心からの気持ちだ。「では、では、偽装してはいかがかな?」「偽装?」「そうですぞ。例えば私にはもう素敵な殿方が居るから」「いずればれてしまいますよ」「ならば真実に、真実にすればよいではないですかな?」軍師様は突飛で、大事な物を落とした人が多いのだろうか、と呆れたと溜息をつけば酷い酷いですぞ。と言った。くどい人だ。



「相手がいないんですよ、言わせないでください」「ならば、ならばこちらからも言わせていただきますぞ。私がいると、言わせないでくだされ」


title 箱庭


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