エリーゼはぼくのために




諸葛誕はただのマゾ。


貴女に付けられる物ならば精神の傷だろうと、肉体的な傷だろうとどんなものでも愛おしく感じる。そういう彼は恍惚の表情をしていて、爛々とその瞳に被虐を宿していた。そう言った趣味の人も居なくはないだろう、だが、私にはそのような趣味も無いので彼を狗と罵ったり、痛めつけて喜ぶ趣味も無かった。「ああ、名前殿!」それなのに、諸葛誕殿はそれを心の底から真に求めている。「どのような言葉でもいい、貴女から得られる物ならば私はなんでも幸福だ!」



それがわからないのだ、諸葛誕殿は酷い言葉でも喜ばしいというのだ。理解不能である、どうして、酷い言葉が喜びに変換されるのか?縛れるのは嬉しい事なのか?諸葛誕殿は勝手にくみ取ったようにべらべらと舌の根も乾かぬうちに喋りだす。「それは、名前殿から与えられるからだ。貴女から与えられる言葉、痛み、感情、それらが全て愛おしい。私の身も心も、貴女の好きなように扱われたいのだ。さあ、私の武器を使ってください。私に一生癒えぬ傷を与えてください、それは生涯、私の宝物に成ろう」そう言って、私に武器を手渡した。それは戦場で扱われている、上質な物で諸葛誕殿が愛用なさっているものだった。これで、思い切り叩けば痛いしきっと傷が残る。血も出るかもしれない。これは武器で凶器であり、玩具ではない。



戸惑いの意思と共に、その武器をもてあまして持っているだけの状態で屹立していたら諸葛誕殿が催促してきた。「きっといい相互利益に成る。名前殿は日ごろ溜まる鬱憤、憂さを私にぶつければいい、そして、私はその傷に悦びを覚えるだろう。貴女が私を愛してくれなくてもいいのだ、私はその傷一つだけで悦び、また心のない罵倒を胸に刻めるのだ」「……」思考回路について行けないのだが、恐らくたいていの人間は諸葛誕殿の意見には同意しないだろうし、侮蔑すると思う。「勘違いしないでほしい、私は愛すべき名前殿だからこそなのだ。他の者に付けられる傷など、ただの不名誉でしかない」



「ですが、これは戦場で使っていらっしゃられている本物の武器ではないですか。打ち所が悪ければ死にますよ、私はこのようなもの扱ったことが無いので加減もわかりません」だから、諦めてくれと言う意味で言ったのだが諸葛誕殿の瞳はおお、やってくださるのか!と悦びに打ち震え、輝きに満ちていた。此処でもまた食い違い誤解を招いている。「大丈夫です、私とて戦場に立つ者です、多少の事には慣れております!負傷したことだって何度もあります」「そういう意味じゃな……」「大丈夫です。人目のつかないところでやれば、誰も名前殿を責めたりなどしませぬ!それに、傷の一つ二つ、然程皆は気にしません」さぁさぁと押されてきている。



この、状況はなんだ。人気のない暗がりで。武人ではないためか、程よい程度の引き締まり方をした上半身裸の諸葛誕殿と武器を持ったままの私。え、これどうしたらいいの。早くしてくれとせがんできている諸葛誕殿には申し訳ないが私は絶対にこれを振り上げるわけにはいかない。振り下ろしたら負けだと思う。後、そちらの道に踏み入れるつもりはまるでない。


title エナメル


戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -