アポリアを溶かして作った嘘




→握りつぶしたのはあなたの心臓だった の続きらしく、鍾会さんやっぱり殺しちゃったみたいです。愛情はやっぱり歪かもしれません。(元拍手文です)


心など要らない。貴女と言う存在が、私の手元にあるのならば今はきっと、何れは満たされるはずなのだ。愛情など要らない、私が捧げ続けるだけで満足だ(物欲に近いのかもしれない、押し付けに近いのかもしれない)。ずっとずっと、そう自分に言い聞かせては、私は彼女を愛でていた。愛でる事、女を知らない私の愛情と言うものは傍から見れば不器用で、恐ろしくたどたどしい物だったかもしれないが、愛には違いが無かったはずなのだ。ぽんやりと、外に広がる美しい人の手が加わった景色を虚ろに濡れた真っ黒い瞳(光が当たるとこげ茶色にも見える)で何処に焦点を当てるでもなく見ていた。彼女の日課である。一日の殆どを寝て過ごしてしまうか、日に当たってはぽんやりとしている。



彼女の心が壊れてしまったのは、私が何よりも自然な形で彼女の愛しい人を奪った時だ。彼女は心底、あんな無能な輩を愛していたのだ。ハッキリ言って奴は、彼女の傍に居るのにふさわしい人物ではなかった。特別に武力に優れていたわけでもなく、才に恵まれていたわけでもなく。ただ、彼女は奴を優しい人だと評し、愛した。人間とは愚かしくも、貪欲な生き物だ。前述のように、最初は心など要らぬと、思っていたのだ。本当なのだ……彼女を傍に置けるだけで僥倖であると思ったのだ。周りの目は哀れむばかりだった、若くして旦那様を失くされた可哀想なお方だと。それを献身的に支える私の姿は、どうやら好評価らしい。私は、悲劇に酔うのも見るのも好きではない。いや、根本的に間違いだ。これは悲劇などではない。



今日も反応が無い。毎日、キチンと話しかけ、私の受けた教育がどんなものだったのかを喋っているのだが、返事や相槌、反応が無ければただの独り言とみなされよう。贈り物をした時もあるが、嬉しそうな顔一つしてくれない。時たま私は、彼女の頬を無性に引っぱたいてしまいたくなる時がある。手が出そうになるたびに私は、右手首を思い切り赤くなってしまうほどに握りしめる。私は反応してほしいのかもしれない、既に境界線を越えており、私は嬉しそうな顔、愛しげな顔でなくとも、彼女が私に興味を僅か数秒の間でも持ち、見てくれるのならば、痛みを与えて乱暴に扱ってしまいたいと思うのだ(苦悶して、痛いと言ってくれるだけで私の心の中が満ち足りるかもしれない)。



桃の花が、散る。はらはら、くるくる。艶やかな女性が舞い踊っているそれによく似ている。私は彼女の隣に腰を掛けて、桃を齧っていた。甘い桃の匂いと、それから花の香り両方が入り混じっている。彼女は桃の花に目を向けていたが、いつもの虚ろなそれではなくて、表情が灯っていた。そして、私を見て鷹揚に笑んだのだ。驚いて危うく桃を落としかけたが、桃は未だに掌中にあった。間一髪だっただろう。落とせばそのまま、蟻や動物にくれてやるまでだが。「……有難うございます、鍾会殿。貴方は、優しい人ですね。夫を亡くした私を、見捨てずにずっと支えてくださった。貴方は、私の光です」



その日から彼女は、私が贈ったものを身に着けるようになった。笑んで、話しかけたら品のある返事をして。段々と奴の居場所は削られていくのをひしひしと感じた。これは、喜劇以外の何物でもない、笑いがこみあげてくるぞ。この私の完全勝利だ。最後に勝つのは、やはり強かで有能な私なのだ。

title Mr.RUSSO


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