1万マイル上空のエデン




夢主は狂人


何故だ、何故司馬師殿に刃を向けた。貴女には、司馬師殿に刃を向ける理由も無い、その上に単独で謀反などと!その声は悲痛な叫びにも似ていて、鋭い切っ先の様にも思えた。鋭い瞳が悲しみを宿していて、名前がそれに粟立ち、打ち震えながら答えた。「そうですね、別に司馬師様である必要も無ければ、司馬師殿を本気で害そうなどというつもりもありませんでした」つまり本気で殺す気はなかったらしかった。その言葉に諸葛誕が目を剥いて、驚愕した。そしてさらに追及するのだった。ならば、何故だ、何がそなたをそのように駆り立てたと。



「しいて理由を述べるのであれば、諸葛誕様を好いていたからでしょうか」大人しく、諸葛誕を見上げ処断されるのをただ待つ、名前が答えた。謀反の理由を聞いても諸葛誕はただ、わけがわからずに惑乱するばかりだった。「理由に成っておらん!そのようなことを恥じらいも無く申されても、私には……っ、」くつくつ名前が笑い出した、声は次第に大きくなり反響して諸葛誕の鼓膜を大きく震わせた。「はぁ、諸葛誕殿には永劫に判りませんでしょうね。私の気持ちなどわかりませんでしょう」「わからぬ!突然に司馬師殿に刃を向け、殺害を企てる名前殿の気持ちなどわからぬ!」諸葛誕は崇拝し狗のように司馬師を慕っていた。「だから、少し妬いたのかもしれませんねぇ、」



笑うのをやめた名前はまた、狂気を孕んだ瞳で諸葛誕をその双眸で見つめた。しっかりと焼き付けるようにじっとりと濡れた瞳で。「私は、諸葛誕殿に不意に殺されたくなりました。若しもですよ、私が司馬師様にたてついて驚かせ、その上で諸葛誕殿に処断されればさぞやお心に残るだろうと思いまして」「……そのような理由で、」信じられぬ、生にしがみ付くものは幾度となく目にしてきたがそのような理由で死を望むものなど生まれて初めて見たと諸葛誕の心を大きく揺さぶり、また、落雷に打たれたような衝撃を与えた。安易なたとえだが、それ以外に今の諸葛誕には思い浮かばなかった。



処断する手は止まったままだ。「私の苦しみ悶える姿に罪悪感を覚えてください、死ぬ様を少しでも頭の片隅に置いてくだされ、記憶として残してくだされ、脳髄にまで焼き付けてくだされ。一瞬でも衝撃的であれ。そして、願わくば諸葛誕殿の記憶の奥深くに生き続けることを」私は死ぬことで貴方の心の中で生き続ける。そういわんばかりだった、その女の心が怖くて諸葛誕の手はいつしか震え、持つ刀の柄はじっとりと手汗で濡れ、カタカタと音を立てた。知らず知らずに彼女の心に吸い込まれていくような気がした、名前の深淵は未だに怖くて、覗けないのだ。



「早くしてくださいませんかね、理由も話したじゃあないですか、これ以上話すことも無いですし、私は間者でもなくて、謀反するだけの力もありません。それも真実ですし、前述も全て真実です。早く殺して早く生かしてくださいね。夢の中でお会いしましょう」そう言って、うっとりと悦に浸るような顔をした後に、名前はすべてが終わったかのように(悟ったか)目を瞑り処断の時を待った。諸葛誕の腕は未だに持ち上げられたまま振り下ろせずにいた。名前を切ったら永遠に名前は自分の心に生き続けるのだろか、果たしてそれは、本当に永劫なのだろうか。本当に、それが名前の言う慕う気持ちなのだろうか。ならばこれほどに歪な形のものを見たことはない。そして、これから先も見ることはないだろう。


title Mr.RUSSO


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