鼓動が止まった日の胎動




流血表現はある。


馬鹿めが馬鹿めがって罵られると誰だっていい加減に、同じ言葉しか繰り返せないのか馬鹿めがと言いたくなってしまうだろう。相手は、目上の相手なので死んでも言い返せないが(命は惜しい、命は大事にしろと母上から常々言われていましたゆえ)。応急処置の布はもう真っ赤に染まっていて、時間がたったせいか赤黒く変色している部分すらもあった。「大体何故ですか、司馬懿殿が憂いを帯びた瞳で、あの拠点がどうとかいうから落として来てあげたのに、なんですかその言い方は。まるで私が悪いことしたみたいじゃあないですか」寧ろ、有能な将が守っていた拠点を命がけで奪取してきてあげたのだから、感謝されることはあれども、馬鹿呼ばわりされるいわれはない。



ぷりぷり怒りながら、止血のためにと用意された布をまた巻き付けた。そして強く結びつけて私は痛みに耐え呻き声をあげた。ああ、痛い。司馬懿殿の為にやったのに。ていうか、褒めてほしかったんだけど。「よくやった、名前!褒めてやろう」とか「流石は、私が認めた将だ」とかそういう称賛の声を望んでいたわけなのだ。何のために危ない崖のような橋を渡ったと思うのだ。



「馬鹿めがっ!確かにあの拠点は重要な拠点だったし、欲しかったのも事実だ!だが、大けがをして私の手間をかけさせる奴があるか!」「!ひ、酷い。私の頑張りを、手を煩わせるとすら言うなんて、司馬懿殿なんて嫌いです、酷いです」あんなに、負傷してまで取ってきたのに煩わしいとすら言うなんて司馬懿殿に心はあるのだろうか?司馬懿殿の鬼。こんな男に惚れてしまった、私は本当に凡愚で馬鹿なんだ。急激に悲しくなって涙すら零れそうになった時に司馬懿殿が私をいたわるように、まだ、手当てを済ませていなかった足に汚れるだとか気にせずに触れて手当を始めた。「馬鹿めが、……女がこんなに怪我をしてどうする」「汚れますよ」「煩い、馬鹿めが。あそこは難所だから策を考えていたというのに、何故力でごり押した!大体貴様には、あの拠点を落とせだなんて一言も言っていないぞ!そもそも、私はこの戦に貴様を出すこと自体反対だったのだ!なのに、このような大怪我をして!心配する私の身にもな……、あ、」



今まで悪かった司馬懿殿の顔色が、見る見るうちに熱が集まっていき赤く染まっていった。信じられないけれど、どうやら、司馬懿殿は私の事を心配してくれていたようだった。だから、頑張った私の事を罵倒したのだ、全ての欠片がはめ込まれた時私の顔色も、司馬懿殿と同じに成るのだ。


title Mr.RUSSO


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