君に纏わるエトセトラ




諸葛誕が死ぬ。



私は名前という人間が嫌いです。容量が悪くていつも、失敗ばかりで。いつも何かをするときは大抵遅くて、馬鹿にされたりするのには慣れておりました、のろまだの愚図だの、同僚から嘲笑されるのも慣れておりました。そんな中で諸葛誕様だけは私を笑わずに真剣なその鋭い双眸で優しく見つめてくれて、頭を撫でてくれたのです。「さぞや、辛かっただろう」泣いても構わぬのだぞ、と言ってくれたけれど何故泣かなければいけないのかわからなくてキョトンと有難うございますって言葉を、告げるだけだった。



「貴女はあまりにも、周りに言われすぎて涙も出ないのだな。感情が死ぬほどに追い込まれてしまったのだな。周りの罪は重たい。何を言われても言い返しなどしないのだな、」悲しそうに言った。感情が死ぬという意味はやはりわからなかった。美味しい物を食べれば美味しいと感じて幸せに成って、美しい草花を目に移せば美しいと感じて感動を覚える。いったいなんで、感情が死んでいると諸葛誕様は思われたのでしょうか。その言葉の意味を未だ知る由も無い。



名前という人間が嫌いです。

ああ、私を唯一認めてくださった諸葛誕様はもう息をされていない。ただ、美しい死に顔のまま、微動だにしない。「諸葛誕様、起きてください、諸葛誕様」護衛武将失格だ。諸葛誕様をお守りできずに死ぬなどと。失格にも程がある、戦の前に私など連れて行っては諸葛誕様が危ないです。どうか、他の者をお連れくださいと進言したのに。ああ、死ぬ前にきっと後悔なされただろう諸葛誕様は、やはり、名前などではなく、別の腕の立つ護衛武将を連れて行けばよかったと。



ほうぼうから火の手が上がっている。わあわあと鼓舞する声、もうどれもこれも、私の耳からは消え失せていた。ただの、公害の様であった。私は諸葛誕様の死に目にすら立ち会えなかったのだ。はらはら、涙が諸葛誕様の頬、唇を汚していった。私はやはり名前が嫌いです。でも、矢張り、諸葛誕様、感情が死んでいるというのは嘘だと思います。現に私は……諸葛誕様の死を悼み、涙を零しているじゃないですか。泣けないなんて嘘ですよ。空はこんなにも晴れ渡っているじゃあないですか。



title Mr.RUSSO


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