好きです、大好きです




残念な美男子だとか、近寄りがたいとか。最初に抱いた印象はどちらかと言うと悪い物ばかりであった。彼には申し訳がないのだが、残念ながらまぎれもない事実なのである。第一に彼は、一々自分が有能だとかすぐれているだの主張しているし(確かに彼が言うように、彼は完璧に近い人間なのだ、とても達筆だし)、私のやることなすことに文句をつけてくるし、私にも彼が望む完璧を押し付けてくるはた迷惑な存在なのだ。だけど、今は違う。



「鍾会様の、もとでだなんて名前もついていないね」同時期に入った女官との立ち話に鍾会様の名前が挙がって私はニッコリと、極めて笑顔に近い作ったものを浮かべたのだった。最初は矢張り、彼女の言うようについていない、だとか、諸葛誕様の元で働けたらどれだけ幸せだったかと己の不幸を嘆くばかりだったが、意外にも此処までやれてしまった自分がいる。「そうでもないですよぉ、鍾会殿はああ見えて扱いやすいんですよ」「扱いやすい?!」己の主人をそういう、配下はきっといないだろう。だが、私の場合は例外である。その唯一かもしれない。



「そうそう、この間も。お茶を入れろって言われたから入れたんですけど、酷評されまして、じゃあ、鍾会様ならうまくお茶を入れられるんですか?と煽ったら顔を真っ赤にされて躍起に成って、当たり前だ!と凄く美味しいお茶を入れてくれましたよ。ああ、それから、直すように言われていた着物も同じように煽ったら自分でやってくれました」凄くすごく扱いやすくて可愛い、上官なんですよ。



「それから、とっても、おだてに弱いですねぇ。少し褒めるとすぐに調子に乗ってくれてなんでもしてくれます。私、最初は諸葛誕様の元がいいとか思っていたんですけど案外悪くないですよ鍾会様も。寧ろ扱いやすくて一番好きかもしれません」同期の女官はポカンんと頭を叩かれたみたいな顔をしていたけれど、次第に表情が戻っていってぷぷっと笑いを零した。慌てて手で口元を抑えたけれど、後の祭りだった。別に笑ってくれても構わなかったので私も、一緒に笑っておいた。



まさか、先日の回廊での出来事を、こともあろうか張本人である鍾会様に聞かれているとは思わなんだ。よりによって彼でなくてもいいじゃないか神様。鍾会様は怒りにプルプルとその華奢な身を震わせていた。「私が扱いやすい……おだてに弱いだと?!お前!私を馬鹿にするのも大概にしろよ!」机をこれでもかと力いっぱいに叩くので、壊れたらどうするのですか?!と止めたけれど無駄だった。完璧に私に非がある。さてはて、彼の怒りをどうやって止めようか。あれを聞かれたんじゃ言い訳なんてできるわけも無いなぁと思いつつ口の端っこから言葉が漏れていった。



「つまり、鍾会様の女官に成れてよかったと思っているんですよ、私って鍾会様が大好きですから」「だっ!」だ?何が言いたかったんだろうと思ったら、池の鯉が餌を欲しがる仕草にそっくりな事をしていて思わず私は、吹きかけてしまった。「し、仕方ない、そこまでいうなら、今回は特別に許してやろう!」ほら、簡単でしょう。だから、大好きなんです鍾会様が。


好きです!大好きです!
(扱いやすくて好きよ)


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