きみはあいされています




翡翠を嵌め込んだ首飾りを差し出す彼の顔色は、土気色でお世辞にも顔色は良くなかったし、事実、彼は少し叩けば泡を吹いて倒れてしまうんじゃないかと思われるくらいに病弱であった。それに比べて彼女はとても生気に満ち溢れていて、そっとやちょっとでは倒れないような頑丈な武将の娘であり、彼女自身もまたそんな父の背を見て育ったせいか武芸を好み嗜んだ。二人はどちらかというと対照的で、共通点はあまりないように見受けられる。だが、郭淮はあまり周りの目は気にならないようであった。ただ、煩わしそうに少しだけいつものように咳き込んだ。それから、暫くしても受け取る素振りを見せない名前にどうして受け取ってくれないのかと不満げに瞳を伏せた。「そのような物、要らないです。出直してください郭淮殿」「ああ、これでも、まだ足りないと申されるのですね名前殿。だが、ケホケホッ、すみませ、ゲホゲホッ、わたくしは、貴女に受け取ってもらえないと未練が出来てしまいそうなのです」何処かホッとした、幸福そうにも見える郭淮は直ぐに身を引いた。それが何を意味するのかは当人だけだったが、どうやらこのやり取りは一度や二度ではないという事を、示していた。また、郭淮は別の日に違う宝石を手にやってくるだろう。



「なんだ、あれ。お高く留まりやがって、嫌な女だぜ」司馬昭が不愉快な物を見てしまったと明らかに、顔を顰めさせた。翡翠は決して安い物ではない、女に貢ぐのは自分の価値にも繋がるから別にやめろとは言わない。だが、あの女の態度はなんだ。高価な物を贈られているというのにも関わらず一言で要らないなどと。郭淮も郭淮だ。男の尊厳は何処へやった。怒鳴るなり(体に障るかもしれないから静かに怒るだけの方がいいだろうが)名前の頬を引っぱたくなどすればいいのにと司馬昭は思った。「一度くらい受け取ってやりゃいいのに、感じ悪い」「違う、子上殿……あれは、名前殿成りの……、」同じ男として許せなくなったのだろう。普段ならば、面倒くさいなどと口にしては力を出し惜しみする癖があるのにずかずかと大股で名前に詰問して近づくので、同じくして隣で事を見守っていた王元姫が止められなかった責任の一端は自分にもあるとばかりについて行った。



「おい、名前。前々から言おうと思っていたんだけど、あの断り方はねぇーだろ。一度くらい受け取ればいいじゃないか」名前はその乱暴な言葉遣いを、気にする様子も無く緩慢な動作で顔をあげて、拳を作り片手でそれを覆った。そして一礼して視線を外した。「はぁ、しかし司馬昭殿。あれが最後で形見に成ってしまうのであれば、私は受け取りたくないのです。贈り物だとしてもあのように高い物はなおさらです。そして、私はあれがあの人の最後の贈り物だと思いたくないのです、どうか、私の気持ちも汲んでいただきたく思います」司馬昭はわっけわかんねーと頭を乱暴にかき上げた。そこでようやく小走りで追いついた王元姫が言った。「子上殿」「元姫。お前からも言ってやってくれよ」「……はぁ、ごめんなさいね名前殿。私は貴女の言いたいことわかっているつもり。あれが形見でなければ貴女だって受け取れるかもしれない、そういいたいんでしょう?そして、郭淮殿も本当は受け取って貰えなくてホッとしている」「ええ」



王元姫の言葉にはぁ?どういう意味だよ?と司馬昭が興味津々に食いついた。気に成って仕方ないようだった。「子上殿……逆に考えて。あれが最後だと思いたくないの。名前殿は無事に郭淮殿が帰ってくることの方があんな高価な贈り物よりも嬉しいのよ」きっと病弱な彼の生きる理由にもなる。「はぁ。そんなもんか?よくわかんねーけど、めんどくせ」そう言う駆け引き?みたいなの俺にはわかんねーわ、とだけ呟いて彼はあのやり取りを思い出した。「ま、そういうあり方もあるのか」成る程、この二人は思い合ってあのやり取りを繰り返しているらしい。それだけを理解して。ああ、それにしても郭淮は次、何を持ってくるのだろうか。なんにせよ、名前は彼が無事で帰ってきてくれればなんだってよかった。


title カカリア


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