天使に逢うなら地上の終わりで




鍾会と死んじゃう夢主


困った人だな。そういって困り顔のまま口元に弧を描き、微笑を浮かべるのがあの人の癖だった。困った人だ、呆れたようにそう言いながらも最終的には必ず私を助けてくれる。崩れ落ちる寸の所で抱き留める。矢が足や腹に何本も突き刺さっている。血が止まらないようで何かを悟ったような表情をしていた。「……貴方は困った人だ、本当に……、困った人だ、」緩やかに漏れ落ちる呼気はいつ止まっても不思議ではなかった。私が此処で見捨てていけば確実に息の根は止まるだろう。目もずっと彼方の濁った鈍色の空を見ているだけだ。「捨てていけ、私など捨てていけ。此処も安全じゃない。私を助けようなどと思うな、荷物に成るだろう」「逝くな」これは、懇願などではないぞ、私の命令だぞ!と泣きそうになりながら縋りつけば私を困らせないでくれ、と眉尻を下げて双眸を眩しそうに細めた。「すべてのものに、……別れを告げるのには、時間が無さ過ぎる。一日一日を全力で生きて、慈しめばよかったと後悔するのだ、」今はただただ、目に映るもの映るものが愛しく感じられる。貴方も例外ではない。そういって手を伸ばして頬に触れた。冷たくて生を感じられなくて涙がこぼれた。



「必ず助けてやる、この私が救ってやると言っているのだ。絶対に生きろ、絶対に、でなければ、」私は一人ぼっちに成ってしまうじゃないか、今まで内心孤独だとか、辛いだとか思っても本気でそう思わなかったのはお前という存在がいたからだ。それなのに、私の許可も無く死ぬなんて許されるわけがないだろう?「泣かないでくれ、貴方に泣かれると私はどうしたらよいかわからぬ、」次に言ったとき目はもう空など見てはいなかった、否、戦場はおろか私すらも。……何処も見てなどいなかった。少なくともこの世界を映してはいなかった。もうその目に生気は宿っておらず、ああ逝ってしまった、私を置いてと世界が倒錯するのを感じた。



困った人だな。遂に幻聴が聞こえ始めるようになる、私は病を患ったのだろうか。常にあいつがいるような気がするのだ。「煩いぞ、私の何処が困った人だというのだ。英才教育を受けた完璧な人間だぞ、……完璧な、」きっと認められないだけなのだ、認めたらきっと奴は本当の意味で死んでしまう。死とは肉体面だけの死を言うのではないと私は考えている。真の意味での死は、忘れてしまう事だ。誰の記憶からも、消えていなくなってしまう事こそが本当の意味での死だと思うのだ。そして、私は彼女を殺したくなかった。最後まで彼女を記憶の片隅に住まわせて、生かしてやりたかったのだ。



荷物に成るだのなんだの言っていたが、私は彼女を敵の目をごまかして何とか連れて帰った。英才教育を受けた私には造作も無い事であった。そして、未だに死体は私の傍らにある。埋葬はしていない、そんな私を人々は鬼畜だの同じ人とは思えないと罵る。防腐剤を使ったりしているがいつまで持つかわからない。困った人だ、私は死んだのだぞ鍾会殿、土に還るのだ。それは自然の掟だ。「煩いぞ、」まだ、認められない。きっと、これからも認められない。


title カカリア


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