僕はきっと君が嫌いだ




ああ、これだから彼は浮いた話も無く、配偶者もいないというわけか。と随分と自分の中であっさりと答えが出てそれから酷く納得してしまった。端麗な顔立ちで頭はいいはずなのに、口を開けばすぐに英才教育だの、自分は有能だの、選ばれた人間だの。それだけならばまだ自尊心が高いだけの人間で話は済むのだが、更に人を見下すような事をポンポン発言するのだ。それでは周りに敵を作ってしまうのは無理も無い話である。「なんだ、その哀れんだ目は。英才教育を受けた私にはわかるぞ!お前、私の事を馬鹿にしているだろう!」



くるくると髪の毛を弄っていた器用な指先は、今はイライラしているのか握り拳にかわっていた。余程、私は鍾会殿を可哀想な人を見る目で見ていたのだろう。そういう自分に関するところばかり鋭いのだから困る。「いえ、別に……、」「言えっ!気に成るじゃないか!」「……いえ、これ言ったら鍾会殿は更に怒ると思いますし」鍾会殿のその態度と性格のせいだと間接的に言ってしまうのだから、恐ろしくて言葉に出来るわけがない。これ、言ったら私は鍾会殿に恨まれて何れ殺されてしまう気がする。しかし、言わなければ言わないで禍根が残り大変な目に遭うかもしれない。



詰まりどちらの選択肢を選んでも私はろくでもないことに成るのだ。ああ、いやだ、いやだいやだ。事実じゃないか、彼が独身なのも恋人すらいない事も(その性格のせいで)。高速で頭が処理を行う。鍾会殿を褒めつつ思ったことを口にすればまだましだろうか。それとも、嘘八百を並べて鍾会殿にいい気分を味わわせれば私は助かるだろうか?いや、しかし先ほど鍾会殿は哀れんだ目と言っていた。騙せないのでは?となると、残された選択肢は鍾会殿を褒めつつ、思っていたことを素直に言う……しかない気がする。ああ、残酷な運命だ。「……鍾会殿は頭もいいし、えーとお顔も整っていらっしゃるなぁと」「成る程ね、もっと褒めてもいいよ。でも、もっと別の事を考えていただろう」



「ええ、まあ。それなのに、えーと……ずっとおひとりでいらっしゃるなぁーなんて。あははは」おひとりでいらっしゃるって随分と濁したが、結局ぼっちだよねと遠まわしに言っちゃった気がした。最後は笑って誤魔化したが、無駄な足掻きだった気がする。鍾会殿にはきっと私の思っていたことは今の台詞で筒抜けだと思うし。鍾会殿のお顔はやはり端麗だったけれど眉間に随分と険しい皺が刻まれてしまっていた。おふう、恐ろしや。「矢張りお前は内心で私を馬鹿にしていたのか!絶対に許さんぞ!」「だ、大丈夫ですよ。えーと、そ、その内に傾国の美女が鍾会殿と……!大丈夫です。……多分」



私は嫌だけど。という言葉は何とか体の内側にしまわれた。これを言ったらいよいよ首と胴体が離れることに成るだろう。いや、だって、鍾会殿のような方が旦那様だったら周りに敵を作りすぎて何れ、一族もろとも処刑とかあり得る!私はそのようなついでの形で殺されたくはないので絶対に嫌だ。「モテないとかじゃないぞ!私に釣り合う女性がいないだけだ!」「ああ……そうですね、」成る程、自尊心が高い分女性の好みというか……隣にいる女性も欠点のないような完璧な方でなければいけないというわけか。まあ、鍾会殿だからそうだろうな。普通の女性だと自尊心が傷ついてしまうからなぁと妙に納得させられた。



「名前も、そんなに私の事が気に成るというなら素直に言えばいいのに。何でそんなに遠回しなんだ。まあ、有能な私を好いてしまうのは仕方ないことだよ」「?!」どうしてそういう解釈に成った?!突飛すぎて私はついて行けないぞ。それともなんだ、英才教育を受けた人間はこうも思い込みが激しいとでもいうのか?「と、とんでもない!私のような者が鍾会殿をお慕いするなど、恐れ多い」敢えて下から恐れ多いと言っておく。多分これならば、鍾会殿も不快には思わないだろう。「ま、まあ。そこまで、私の事が気に成るならば一緒に居てやらなくもないよ」いや、結構ですと言おうと思ったら目の前の鍾会殿が頬紅でもされたのかと思われるほどに赤くなっていたので、喉に突っかかったまま出てこなかった。これだから、困るのだ。

title カカリア


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