ルーベライトの逃避行



※ベータ視点。


名前はとても可愛らしい。

故、私が目を離すとすぐに周囲には悪い虫が寄ってしまんです。ほら、今だってそう。困った顔でおろおろとする名前を取り囲むように、アルファエイナム、それにクオースが。ああ鬱陶しい!名前の気を引こうというのがバレバレで、それでもそんな事に気がつかない名前はただ、苦笑いを浮かべて逃げようとするのに、三人に囲まれていてはそれも難しいんでしょうねー。まあ、多方会話の内容はきっといつも通りでしょう。


「名前、私達と一緒に出かけないか」


……ほうら、やっぱり!名前が娯楽を求めているのを知っていて…堅物そうな顔してアルファは名前が欲しくてたまらないみたいですねえ。渡す気は毛頭ありませんけれど。でも名前、あなたも毎回動揺しないで欲しいです。私と一緒に行けばいいんだから、堂々と断ってくれればいいのに……まあ、それが出来ない優しい名前だから好きになったんですけれど。ってああもう!エイナムってば名前に触らない!


「そこを離れてくださいます?」
「ベータ様!」


廊下の影から私を見るなりぱああ、と顔を輝かせる名前に思わず顔が綻んだ。ああ可愛らしい名前。さっさとそこから助け出しますから、もう少し待っていてくださいな。ひらりと手を挙げると笑顔になった名前とは対照的に、男共は苦々しい顔になる。その顔はとっても愉快なんですけれど、まだ名前の腕を掴んでいるエイナムは何様のつもりなんです?


「名前は嫌がっているでしょう」
「ノー、嫌がっているようには見えない。彼女は娯楽に興味をそそられていた」
「アルファあなた、名前の苦笑いが分からないんです?残念ね」
「……そんなことは」
「エイナム、貴方もさっさと名前からその手を離しなさい。クオース、貴方ももう少し離れてくださいな」


反論してきたアルファと違い、エイナムは名前から手を離し、クオースは(渋々ながら)ゆっくりと名前から距離を取った。「はあ…毎回の事とは言え…」ひとまず安心、そう思ってこちらに来るよう名前に手招きする。普段はここで名前が駆け寄ってきて、私たち二人で歩いて部屋に戻る。それでいつも、このゴタゴタは終了する。今日もそう終わる……かと思いきや、アルファが動いた。感情の読めない目でこちらを一瞥したあと名前に近寄り、「え、えっ?」戸惑う名前の手を取って、自らの指と彼女の指を絡めた。……所謂、恋人つなぎ。しかも両手で。


「あ、あ、アルファさまっ!?」
「ちょっとアルファ!?何をしているんですか!」
「私は名前を好いている」
「………へ、っ?」


ぽかん、と口が開いて言葉が出なくなった。まさか、あのアルファが。あのアルファが堂々とこんな昼間から、こんな事を言い出すなんて!呆然としているのは私だけではなくて、エイナムとクオースも目を見開いていた。「抜けがけは無かったんじゃないのか、アルファ!?」ちょっと待ってください、いきなり乱入してきたガンマはどういう事で「僕だって名前の事が好きだ」「え、ええっ!?」「お、俺だって名前が好きだ!」いや、ちょ、どこに隠れてたんですか貴方達…!?「私も」「僕も」「俺も」……延々、名前に対して投げかけられる愛の言葉。いつの間にか流されて蚊帳の外となってしまった私は勿論だが、輪の中心に投げ入れられた名前はもっと目を白黒とさせて今にも倒れてしまいそうだった。なるほど、アルファ達三人はこいつらの代表で名前を誘いに来たんですね……!

「名前、誰を選ぶんだ?」「僕だろう?」「いや俺だ」……名前に答えを迫る声が耳に届いてはっとした。今や男共に埋もれてしまいそうなぐらいに取り囲まれている名前の顔は赤いを通り越して最早青い。ただでさえ優柔不断な性格だというのに!「名前!」声を張り上げて彼女の名前を呼ぶ。名前のことを何も知らないのに、追い詰めるなんてしないで欲しいです、まったく。「今、助けに行きますからね!」

名前は何かを叫んだのだろうか。もしかしたら、私の言葉が届いたのかもしれない。それを確認する前に床を蹴って、輪の中心に飛び込んだ。「ぐあっ!?」「あら、ごめんなさあい!」誰か(多分、声からしてガンマ)をクッションにしたおかげで私にダメージはまったく無い。突如飛び込んできた私の影響だろう。一瞬で名前へのラブコールが止み、戸惑う声がちらほらと聞こえた。それを無視して未だ恋人繋ぎをしているアルファと名前を振り返る。


「名前」
「…ベータ様…?」
「貴方が好きなのは、誰なんです?」


一瞬だけ、何を問われているのか分からないといった表情をした名前だったけれど、それはすぐに笑顔になった。少し青かった顔に血色が戻り、見惚れるぐらい可憐な笑顔が溢れる。名前はぱっと手を離し、アルファが失った温度に少し戸惑っていた。アルファから離れ、私の元へ一歩歩み寄る名前。


「私が好きなのは、ベータ様です」


「上出来です」そう言って頭を撫でてやると、嬉しそうにする名前。そんな私達の様子を見て、先程私が晒してしまったものより更に間の抜けた顔を晒すエイナム達。あのアルファでさえ目を見開いているのが愉快でなりません。が、いくら愉快でもこんなところに長居する理由がありませんね。


「じゃあ名前、行きましょう?」
「はい、ベータ様!」


珍しく甘える気分なのか、ぎゅう、と首元に腕を絡めてきた名前を抱き上げて走り出す。「ベータ様、重くないですか?」「いいえ、むしろとても軽いです」それなら良かった、と笑顔になる名前を独り占め出来るのは私だけだ。「名前、」「なんですか?」「私の傍、離れちゃ駄目ですよ?」「勿論です!」私はベータ様が好きだから、と明るい声が響いた。自然に口元が緩む。もう二度と、あんな野蛮な男達には触れさせません!



ルーベライトの逃避行

(2013/07/06)

八万打企画より、永樹様に捧げさせて頂きます。
大好きなのですが、普段は書く機会の少ない百合夢を書く機会を頂けて、嬉しかったです!個人的な百合への理想を詰め込んでみました。ベータ様素敵ですよね!
守ってもらう、というリクエストを上手く表現出来たか不安ですが…;;それ以上にモブ気味になっているプロトコルオメガのメンバーと、とても不憫な扱いになってしまったガンマさんは本当に申し訳無かった…ガンマさんについては後悔はしていないです。←

ご参加ありがとうございました!

(※ご本人様以外のお持ち帰りはご遠慮ください)
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なんと、今回の8万企画で百合夢もOKとのことで永樹もう、ワクワクして自重せずに百合夢をリクエストしてしまいました。百合が枯渇しておりましたので、目の保養に成りました!ハイペースで、このクオリティとはもうなんていうかある意味怖いですね;オメガのメンバーたちも可愛くて楽しかったです!明るい気持ちに成れました。……ガンマの扱いは仕方ないと思います。本当にあんなアバウトなリクエストからこんな素晴らしい物を書いてくださり有難うございました。

永樹

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