八神



雲がどんより空を覆っていて、太陽の日差しが届かないこんな日は外になんか出ず家でのんびりと過ごすといいと思うのだけれど、そうもいかない。まさか、この寒空の下で彼女を数時間も連絡もなしに放っておくなんて出来るわけがない。まずいな、時間にも少し遅れてしまっている。予想以上に時間かかってしまった。信号につかまりすぎたな!信号がいけないんだ!とやつあたりしたところで時間が止まってくれるわけでもなく、私は急いで走った。



「ご、ごめんっ!」
コートを着て、俯いていた玲名の姿を確認して、謝る。玲名の表情は険しく、怒っている。と、直ぐに理解できた。
「遅い!遅刻するなら連絡くらい入れろ」
案の定、怒られてしまった。連絡入れるのすら、走るのに夢中で忘れていた。携帯には何度か着信が着ていた。まったく気が付かなかった。
「ご、ごめんね。こんなに冷えちゃって……」
走ったせいで温まった手で玲名の頬に触れた。随分と冷えてしまっている。早く何処か、暖かいところにいかなきゃな。
「っ!きゅ、急に触るな!」
バッと頬に触れた手を払われた。玲名のこういう仕草が可愛くて好きだ。だから、たまにわざと外でこういうことをしてしまうのだ。



「中に入ろうか。寒いし、外」
そういって喫茶店の方を指差した。中に入ればきっと暖かい。椅子に座ってココアと紅茶をお姉さんに頼んだ。温かい飲み物で体を温めなければ玲名が風邪を引くかもしれない。
「いつもなんだかんだで、待っていてくれるよね」
「……名前と約束しているからな。破るわけにもいかないだろう」
向かい合わせに座っているために自然と視線がぶつかる。
「大体、名前はいつも時間にルーズだから少しは気をつけろ」
「あはは、ごめん。気をつけます。玲名……」
「お飲み物のココアと紅茶をお持ちしました」
言葉を先ほどのお姉さんに遮られてしまった。お盆の上にのせた暖かいココアと紅茶をそれぞれの目の前において、立ち去っていく。
「はぁ……。愛想つかされないように気をつけるね」
「馬鹿」
なんだか、少しだけ気恥ずかしくなって湯気を立てているココアを一口だけ口に含んだ。



きの気持ちが膨らむ

  


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