ベータ



「貴女の中からサッカーを消去しますー」目の前のベータと名乗った可愛らしげな(されど何処か怖い雰囲気を纏わせている)女の子がそう言った。手にはサッカーボールらしき球体が携えられていて、それで私の中の記憶を消してしまうらしい。というより、サッカーに関することだけらしいからその辺は安心してほしいとの事だが「じゃあ行きますね」穏やかな微笑みながらボールを弄ろうとしたときに話しかけた。「あの、ベータさんの事も忘れてしまうのですか?」「んー。そうですねぇ、忘れちゃいます。それが何か?」やっぱり、忘れちゃうんだ。こんなに可愛い女の子を見たことが無いから、私は忘れたくなかった。



出会いがしらに、消去するなどと言われてはらはらしたけれど、抵抗しなければ危害を加える様子もないし、私は所謂一目ぼれと言う物をしてしまっていた。やっぱり、人間の好き嫌いと言うのは見た目で大方決まるらしいし大事な要素だ。私が黙っているのを見てまた弄ろうとするので私はその細い腕を止めた。「待って!私忘れたくない!」「サッカーをですか?」……サッカーも確かに好きだけど私は天馬たちのように情熱的ではなく成り行きでサッカーをしているだけに過ぎやしないから、実はそれほど困ることではない。ただ、困るのは一目ぼれした相手を忘れたくないからだ。だけど、目の前のベータさんはサッカーだと完璧に思い込んでいるようで敵対者に向ける、刺々しい瞳を向けた。



「違う!サッカーをじゃなくて、貴女を!その、変かもしれませんけど……、ベータさんに一目ぼれしちゃって……、ベータさんの事忘れたくないな……なんて。駄目ですよね」ベータさんはその言葉を聞いて刺々しかった瞳を抑え込んだ。どうやらそんなこと言われると思っていなかったらしい。二人きりの空間の中、ボールを床に置いて、手を頬に宛てた。その仕草はベータさんのような可愛い子でなければただのぶりっ子のように見えてしまう物だった。「困りましたねぇ、まさか、そんなこと言われる何て。てっきりサッカーを忘れたくないのかと思いましたぁ」何処かそれは悩ましげな仕草に見えた。「でも、これ任務なんですよね。ごめんなさい」そう言って、床に置いていたボールをトンと足で軽く蹴り飛ばした。眩い光を発して私はそれに飲み込まれた。



「初めまして、名前さん」私の目の前にいる、淡い緑を溶かした可愛らしい女の子が私の名前を呼んで手を差し出した。どこかで逢ったような気がする、そんな気がした。だけど、思い出すことを頭はかたくなに拒否している。なんでだろう、こんなに可愛い女の子とすれ違ったりしたのならば多分、覚えているだろうし。完璧に私の好みに一致しているのに。クスクス笑いしながら、さも知り合いのような親しい態度で話しかけてくる。「やはり忘れていますね、でも、面白かったんで私も興味が沸いてしまったのです」「何の話か読めないよ」「いいの、あの時の言葉、私が覚えているから」全部全部、私だけが覚えているから。心配することは無いですよ。と心をくすぐるような、笑顔を見せた。胸がうずいた。ヒラヒラ、路傍で二匹の蝶が舞い踊るように求愛行動を繰り返していた。


このを止めて

  


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