おむかえ



「名前〜……!立向居君、迎えに来たわよ〜」母の間延びした声が家の中に反響した。お隣さんに聞こえちゃうよ!と私は少しだけ恥ずかしくなった。もう準備は出来ていた。座っていて少し崩れた制服を調えてかばんを肩にかけて、玄関先にいた母に視線を向けた。ニヤニヤ何かを言いたげに笑っている。……母は何で今日からいきなり、立向居君が迎えに来たのかをなんとなくだが予測できたのだろう。私は少し恥ずかしくなりながらも母に「いってきます」といつもより元気の無い声でいってから、玄関先で硬直していた立向居君に挨拶をした。



「おはよう。立向居君」立向居君は何処か緊張したような、強張った顔でおはようございます!と元気に答えた。朝日が鋭く私の瞳を貫いた。それに目を細めて、手を翳した。朝のひんやりとした空気を少しだけ吸い込み吐き出した。立向居君の隣に自然と着いて、歩み始めた。まだ、緊張しているのか立向居君は強張っていた。歩みを進める足取りも何処かぎこちない。昨日からだ。私たちの関係が変わったのは。後輩先輩の関係から恋人という、よくわからない不思議なものになったのは。昨日が昨日だったために、あまり慣れない。未だに立向居君は可愛いくてあどけない後輩のように映る。これをいうと少し機嫌が悪くなってしまうか、シュンとしてしまうから黙るが。



「先輩、えっと……あ、の」いつもと違って、何処か歯切れの悪い口ぶりで少し苦笑いしてしまった。慣れるまで少し時間がかかりそうだった。と心の片隅で思ってしまった。初々しい反応はとても可愛らしいと思う。後輩は皆可愛いけどね。「なに?立向居君」「あ…の……今日、練習終わったら一緒に帰りませんか…?」「勿論。待っているね」それだけをいうと、沈黙が降りてきた。付き合う前のほうが会話弾んでいた気がする。“恋人”という地位はそんなに高いのだろうか。何かが急激に変わるわけじゃないのに。空気は何処と無く、重たく感じられた。昨日まではそうでもなかったはずなのに。不自然、そんな言葉が似合う。



「ねぇ、立向居君さ……明日から迎えは良いよ?」え、と言葉を詰まらせてシュンとしょげてしまった立向居君に違う違う。と私は誤解を解いてから言葉を続けた。「おかあさ……いや、私の家を通ると立向居君の家からだと遠くなるよね?」お母さんといいかけてやめた。これは、私の家の問題だ。うん……。今日からかわれることは最早、覚悟を決めている。家に帰ったら面倒なことになりそうだ。そして、代わりに立向居君の家の話をした。「す、すみません……。俺、迎えに行かなかったほうがよかったですか……?通り道じゃなくても……俺が迎えに行きたかったので」



「嬉しかったけど……。遠回りで大変でしょう?」私の家に寄ると、少し学校から遠回りだった。それが少し気がかりだった。「で、でも……、俺名前さんと少しでも長く居たかったんです……!俺、学年も一つしただし……部活もやっているから……名前さんと居られる時間少ないし」言うだけ言うと、立向居君はまた黙った。自分で言って恥ずかしかったのか顔を赤色一色に染め上げていた。その仕草一つ一つがなんだか、可愛くてまた笑みが零れた。立向居君の言葉がただ純粋に嬉しかった。邪気や悪気も無いそんな言葉は、私の心に染み渡ってゆく。人に言われてこんなに嬉しかった言葉があるだろうか。



「そ、っか。でも、なんか悪いなぁ……。明日は私が迎えにいこうか?」「え……!いや、俺が迎えに行きたくて行っているんで平気ですよ!ほら、俺サッカー部だから、体力にも自信ありますし……!」立向居君が一息で言った。そりゃーもう私が一言も口を挟む隙間すらなかった。「……えと、それでも迷惑……ならやめます……」
また、しゅんと子犬がめげたように瞳を細めた。「迷惑……じゃないよ」



私が照れたようにそう、呟いた。気がついたら学校はもう、目の前で学生が目の前を横切ってゆく。時間は余裕がある。迎えが早かったから、いつもより早く着いたのだ。立向居君がどこか寂しげな、儚げな顔をしたのを見逃さなかった。「もう、着いちゃいましたね……」淡く微笑む。明日も、明後日も一緒なのに、本当立向居君は可愛い。こんな風に言われてしまうと、離したくなくなってしまう。「今日の、帰りも一緒だから、ね?」そう言ってもまだ、寂しげだった。どうして、こうも純粋にいられるのかわからない。自分が穢れているようなそんな錯覚すらしてしまう。「……はい。俺、名前さんを教室まで送りますね。本当は、もっと傍に居たいんですよ」私の教室遠いんだけど、大丈夫かな…?といおうと思ったけど立向居君の表情に何もいえなくなってそれを受け入れた。なんだか、私も慣れないなぁ。


  


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