ベータに看病される



一日中、そわそわしているとメンバーに言われた。一喝して追い払ったけれど何かがそう足りないような気がしてすぐに足りないものが何かと気が付いた。「名前……」そうだ、今日丸一日……名前の夏の太陽を思わせるような笑顔を一度も見ていない。それどころか、逢ってすらいないという事実。名前が練習をサボるとは思いにくい、だが、サボりだと密告は絶対に仕方ない。しかしこれでは、不足してしまうのもうなずける。そして、私のそわそわの理由もいとも簡単に説明できる。「マスター、今日一日名前の顔を見ていないんですよぉ、何故なんでしょう」と遠くにいるマスターに通信機越しに話しかけるとマスターの抑揚のない無愛想な声が『聞いていないのか、名前は風邪を引いて今日は休むと連絡が入っている』



やれ、情けない。あれでもプロトコルオメガの一員なのか。とマスターの声色、会話の節々から聞こえてくるような気がした。「そんなの聞いていませんっ!」一体何故名前は一番に私に連絡をくれなかったのでしょうか?!通信機で風邪を引いたと一言でも言ってくれればこんな練習放り出し、リーダーとしての役目も投げ出して付っきりの看病を手厚くしてあげたというのに!こうしていられないと、普段行うトレーニングを投げ出して通信機で名前に今から行くという趣旨のみを伝えて、名前の住む部屋へ急行した。トレーニングルームを出て、名前の部屋の前に付くとロックがかかっている部屋の前に手を翳した。すぐにかしこいドアは私をベータだと認識してロックを解除してくれた。今や鍵なんて古臭いものは必要が無いのだ。昔に比べて便利な時代になったものだとよく老人がぼやいている。



中に入ると名前がベッドから身を起こして私を出迎え、手の甲で咳を抑えた。昨日は確かに元気だったのに。あれも空元気だったのだろうかと胸を針で刺されたような気分になった。私の前では常に、自然体で居てほしいし、辛いときは辛いと言ってほしい。って前にも名前にはしっかり宣告したはずなのに。「なんで私に連絡をよこさなかったんですかぁ?来なくてすっかり心配していたんですよぉ」「ごめんなさい。けほけほ……風邪を引いてしまって。マスターには連絡したんだけど、ベータはリーダーで今の時間忙しいでしょ?」そういって、咳を交えながらも時間を気に掛ける仕草を見せた。確かにこの時間は急いでこなければ未だに、トレーニングをしている時間だ。「言ってくれればいつでも駆けつけました」ぷぅ、と頬を膨らませて怒っていることをアピールするとしゅんとしょげた。



「ご、ごめんね。後で伝えるつもりだったの、本当だよ」ほら、目を見て信じてよと言うので瞳を覗き込むとけだるそうに熱気を含んで潤んでいた。艶やかにすら見える情景は絵に成るような気がした。ええ、信じましょう。その表情に免じて。「今日一日ずーっと、私が隣に居て看病してあげますねぇ。ていうか、薬を使っていないのですねぇ……よく効くのに。昔のと違って苦くもなんともないのにお子様ね」全く仕方のない子、私が後で口移しで飲ませてあげましょう。昔からある物にわざとした方が面白いかしら。私に連絡を入れなかった罰です。ああ、でもどのような形でも二人きりで過ごせるのはいいですね。


  


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