霧野



あーあーあー、やっちゃったよ。本当に……なんでこうも自分はおっちょこちょいなのか、と自省すること数分。今から、誰かに宿題を写させてもらわなければ私の評価が危ういものとなる。頼れる人と言えば……「蘭丸君、宿題忘れちゃった、見せてくれないかな?」蘭丸は綺麗な瞳をしばたたかせて、やがてむっつりと不機嫌そうな顔になった。「なんだ、またか」言われなくても何となく雰囲気で醸し出していたが、口に出されると余計に心にグサグサと鋭利な物を突き立てられているような気にすらなる。でも、蘭丸はなんだかんだで貸してくれると踏んでいた。だからこそ、すぐに蘭丸に頼る傾向がある。よくないねえ。でも、一番最初に思いつく人物がいつも蘭丸なのだ。



「ほら、仕方ないな」仕方ないなんていいながらもやっぱり優しい蘭丸は貸してくれる。「有難うー!今日の帰りに何か奢るよ!」都合のいいセリフを吐きながら英語のプリントを丸写しする。蘭丸は近くでその光景を見つめている。見られるとやり辛いなと思いながらもしてくれたのが蘭丸なので文句は一つも言わなかった。書き写すという作業は考える必要が無くただ、文字の羅列だけを書き綴る。それは数分で終わる作業だった。(きちんと説いた人からすれば何食わぬ顔で映すだけの存在は許せないものだろうけれど)蘭丸に映し終わってもう用済みになったプリントの紙切れをお礼付で返した。「有難う!助かりました蘭丸様」「はいはい、本当都合がいいな」呆れ気味だったがプリントを回収した。



「ところで、お礼の件だけど」蘭丸が珍しくそちらに食いついてきた。私が、ああ……と言いながら先ほど言った台詞を思い出して言った。「何、奢るー?好きな物いいよ。あ、あんまり高いのは勘弁してね。ほら、お小遣いまえだしさ」結構切羽詰まっているのと、財布の中を軽く見せながら言った。蘭丸は「本当に申し訳程度のお金しか入っていない寂しいお財布だな」と同情の様子を見せた。「んー、じゃあさ。奢ってくれなくていいよ。今色々きついみたいだしな」「蘭丸さん優しい!イケメン!」「俺をおだてても仕方がないぞ」恵まれた顔で苦く笑った。「じゃあ、どうする?流石に何も無しで、ただで書き写しっていうのは私の正義が許さないよ!」正義ってなんだよ、お前にそんなもの存在したっけ?と若干失礼な事を言っていたので失礼な、と呟きそっぽを向いた。蘭丸がそっぽを向いた私の方向へ移動して視界に入れる。



距離をどんどんと縮めて、蘭丸との距離が恋人や親しい人の距離感に成る。それにひるみながらも何か意図があるのだろうと思い、敢えて距離を離したりせずにそのままの位置のまま立ち竦んでいた。そっと蘭丸の腕が伸びてきて、顎に手をかけた。これには流石に動揺を隠せずに狼狽した。これから起きる出来事と言うのは想像にたやすかった。(勿論これが、ただの意地の悪いものでなければの話だが)「らん、」「静かに」顎を指先で持ち上げてリップ音が体に響いた。「あ、えっ!?」「……これで、チャラね」驕るよりも代価が幾分か高いような気がするのだけど……私たちは付き合ってすらもいないのに。ていうか教室内ですよ此処。とかぐるぐる纏まらない思考を抱えたまま、蘭丸を下から睥睨した。「怒らないでよ。ああ、俺……一番大事な事言い忘れていた。……好きだよ」世界は色々と可笑しいらしい。されど世界は気が付かない、この世界がイカれたものだということを。「私も、好き」でも、私はこのイカれた世界が意外にも気に入っていたりする。例えば蘭丸、君のように。



  


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