亜風炉 照美をからかって遊んでいたら、本気で拗ねられてしまった。別に照美を怒らせたかったわけではないのだけれど、照美があまり美人で女の私よりも綺麗だったから、ついからかいすぎてしまったのだ。 「照美ちゃーん、機嫌治してよ。お菓子あげるからー」 一袋しか残っていない貴重なポッキーを照美の前でちらつかせる。 「いらない、僕を“ちゃん”付けで呼ぶのもやめてよ」 いつもならこんなところで怒らない照美も、先ほどのせいか照美ちゃんという単語にも突っかかってくる。普段、どちらかというと大人びている照美が年相応に見える。 「えー、と……。普段そう呼んでいるのに、いきなり変えるのは難しいよ」 仕方が無いので、最後の一袋のポッキーを開封して一本咥えた。 「僕のこと本当に、男だってわかっている?」 折角の綺麗な顔が、しかめっ面で本当残念だと思う。 「だって、綺麗だったからさ」 昔は、綺麗だって褒めると喜んでいたじゃないの。と付け加えるとがっくりと項垂れた。 「今も別にそういわれて悪い気はしないよ」 「じゃぁ、何で怒っているのさ」 照美の頬をプニプニと人差し指で突いていると、煩わしそうにその手を掴まれた。 「……そりゃ、怒るよ。僕を女の子みたいに扱ったり、本当に男かどうか疑うんだもの。怒るに決まっているでしょ!」 キッと、きつくつり上げられた瞳に睨まれた。心なしか、掴まれた手にも力が込められた気がした。照美の手は冷たくて、体温を奪われてゆく。 「う……。ご、ごめんね……?」 「……もういいよ」 ようやく機嫌を治してくれたのか、と淡い期待を抱き笑みを浮かべたがそれもすぐに打ち砕かれた。 「君には、ちゃんとわからせる必要があるみたいだね」 そんな、恐ろしい台詞をさらりとあの顔で言うんだから。私の笑顔も引きつるというものだ。どうやらお菓子を食べている場合ではなくなったらしい。 ← 戻 → |