御門



不器用な大きな腕で私を抱いた。御門を見上げた。御門は相変わらず仏頂面をしていたが、やや体温が上がったように思えた。御門、消えてしまいそうな程弱い声色で御門を呼んでみたが御門は返事をしなかった。やや緩慢な動きで、静寂を掻き消すように腕の力を強めてなんだ?と聞き返してきた。なんでもない。明日だねと御門に聞こえるかわからない声で、言ったら御門はああ、そうだなと随分と素っ気なく返した。明日、明日でお別れ。だから、この妙な状況も全部全部無かったことになる。また会えるかな?と御門の腕に抱かれたまま問うた。さあな。此処は例え嘘でも、また会える。とか言うべきじゃないのかとか女心にそう思ったのだが、御門にもこの後の事はわからなかったのだろう。ただ、知らんと言った。



なんでシードなんかになったの?と聞けばそれに対しても答えたくないのかはたまた本当に御門の言うように成り行きだったのかそれに対しても、さあな。と答えた。離れたくないなぁ、と言えば俺もだと言ったが御門の表情は何度見上げても同じよう仏頂面だった。調子はずれの、心音がただ煩く爆音を響かせている。ねえ御門、私も一緒について行っていいかな?と駄目だと言われるのをわかっていて言えばやっぱり駄目だときつい口調できっぱりと切り捨てられた。



ねえ、御門。私好きなんだけど。この事は言えなかった。随分と試し見ても声にならないで嗄れていく。もう言葉が出ない。此処で力尽きて、二人でそのままいられたらいいのにな。幕引きは必要ないの。好きだ。私が嗄らしていた言葉を御門が呟いた。思わず、顔をあげ見上げてしまった。だが、期待とは裏腹に御門の表情はやはり変化は乏しく、険しいままだった。唯一変わった事と言えば、一定のリズムを刻んでいた心臓がリズムを変えたことくらいか。私も、と言えないのはこの私のすべてに呪いがかかっているからだ。



優しく髪を撫でて言った。「好きだ」繰り言のように、囁いた。御門は必要な時にきちんと言葉にしてくるから、そういえば一緒に居たときはあまり不安に成ったことは無かったけと余計に泣けて来そうになった。泣くな。声がぼんやりと現実味のない白昼夢のように聞こえてくる。泣いてなんか居ないという言い訳は虚しかった。目頭が熱くて、じりじり焼き焦げていくような痛みを伴うから。御門いかないでよ、御門、行かないで。お願い。一生のお願い、この願いが叶ったら他に無理なお願いしないから。お願い。



どうして、首を縦に振ってくれないの。痛みは増すばかりだ。御門御門御門。声はあげずに、ただただ耐えるばかりだった。涙ぐむ視界全体に御門が居た。ああ、温かいのに。

  


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