山岸




学校の帰り道、茂みの中で座り込んでいる迫がいた。なにをしているのだろうと思いつつも大人しく、様子を見てみることにした。何かを呟いているらしいが、よく聞こえない。耳をすませて声に集中してみると、「ニャーニャー」と言っていることが判明した。それを理解した瞬間思わず、「ぶはっ」とふいてしまった。



ふきだしてしまったことによって、私が居たことがばれてしまったらしい。素早く振り返った迫の頬は赤色に染まっていた。よくみたら迫の陰に隠れて見えなかったが黒猫が一匹いた。……まさか、話しかけていたのか?ニャーニャーと。気まずい、雰囲気が二人(と一匹)の間に流れる。
「……もしかして、見ていた?聞こえていた?」
てっきり、誰もいないと思っていつものように話しかけていたらしい。迫が気恥ずかしそうに尋ねてくるので私は一度だけ小さく頷いた。
「そ、そうか……」
よっぽど恥ずかしかったのだろう、私から視線を外し、黒猫に向ける。ウェーブのかかった長い前髪が迫の顔を半分ほど、隠した。



「ねぇ、猫……好き?」
相変わらずこちらを見ようとしない。いや、ごめん、本当覗き見しなきゃよかったよ。
「うん、動物好きだから」
「そっか……。触る?」
こっち、おいで。と誘われたので、隣に座って猫に触れる。ふわふわ、柔らかい毛。
「あの、さ……」
歯切れの悪いような、困ったような声だ。迫のこんな声初めて聞いたかもしれない。
「今日のこと、誰にも言わないでくれ。頼む……。俺がニャーニャー猫に話しかけていたなんて恥ずかしいだろう?」
まぁ、少々イメージと違う気がするが、迫がだいぶ真剣だったため頷いてしまった。



「じゃ、二人だけの秘密だな」
絶対、何も言うなよ。と念を押して立ち上がった。
「言わないよ」
そういうと迫は安心したらしく、安堵の笑みを浮かべた。

ニャーニャー

  


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