フィディオ



フィディオ


彼はいつになく、真剣な顔で私にへんなことを言うものだから私は、いつものように笑って誤魔化すことが出来なかった。
「もうさ、永住しちゃえばいいのに」
こんなことを真面目な顔で言われてしまえばそりゃ誰だって困る。
「それは無理だよ。私、勉強しにきているだけだし」
何より、私は此処で生きていけるだけの能力がない気がする。



安全なガラパゴス諸島……基、日本でなければ生きていける気がしない。日本語もあやふやなのに、他の言葉なんて覚えられるわけもなくて未だにフィディオが他の人と話しているときは全然わからない。なんて残念なんだ……私。人より、そんなに劣っているつもりはなかったのだが、これは認めざるを得ない。
「何で?まさか、誰かに虐められたとかじゃないよね?」
フィディオが不意に顔を曇らせた。いやいやいやいや、違いますよ。少なくとも、私に危害を加えるような人は居ませんでした。寧ろ好意的に接してくれる人が多くて初めての海外、トラウマにならずに済みそうだ。必死に、誤解だ、と否定するとフィディオが安堵の表情を浮かべる。



「何で、っていうか……一回どの道帰らないとダメだし。親とか日本に居るし」
素直にそういうと、「あー、そっか」と全然そんなこと考えていなかった。と、苦笑した。フィディオにしては珍しく抜けている。
「悪いけど、日本に返したくなくなったよ」
急に何を思ったのか、組んでいた腕を崩して、私の手をぎゅっときつく握ってきた。
「何の冗談よ」
こういうたちの悪い冗談はやめてほしいものだ。
「冗談?今までの俺の会話が冗談だと思っていたの?俺は好きだから、日本に返したくないんだよ」
「それ、誰にでも言ってないだろうね」
照れ隠しに可愛げもない言葉が出てくる。普段、どんな目で見ているんだ。とフィディオはがっくりと肩を落とした。
「まさか。初めて言ったよ」
このこと考えておいてね。いい返事待っているよ。とフィディオは握っていた手を離した。



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