宇都宮



虎丸君が、少し大きめの籠を両手一杯に抱えていた。その顔は何処か輝いていた。少し近づき籠の中を覗き見ると、籠の中には四分の二程、土が敷き詰められていた。中には何がいるのか、想像するのはたやすい。多分、カブト虫かクワガタのどちらかだろう。私はもう、虫系はあまり触れないのだが、虎丸君はまだ小学生だからそういう虫とか大好きなのだろう。男の子というのは大体、虫が大好きだから。どちらが入っているのか気になって私はニコニコしている虎丸君に話しかけた。
「何が入っているの?」
「あっ、カブト虫が入っているんですよ〜」



コンコン、とカブト虫が入っている大きな籠を手の甲で軽く叩いた。やっぱり、虎丸君もそういうの好きなんだなぁ、と微笑ましくなった。手の甲でもう一度たたきながら虎丸君が残念そうに眉を下げた。
「うーん……、さっきゼリーも入れたんですけど……潜っていてなかなか出てこないんですよねぇ」
「あはは、仕方ないよ。まだ昼間だしね。いつ、捕まえたの?」
「昨日、俺の店の近くの街頭のところにいたんで、捕まえたんですよ」
「へぇ、この辺にもいるんだ?」
もっと、森とか田舎のほうにいかなきゃいないと思っていたよと、まだ土の中にいるであろうカブト虫の籠をしげしげと眺めた。見るのまではギリギリ平気なのだが……。そういえば、一時期虫のゲームが流行っていたのを思い出す。
「……虫とか平気なんですか?俺のクラスの女子、カブト虫でキャーキャー言うのいるんですが……」
虎丸君が少しだけ不安そうに私を見つめる。私は苦笑しながら首を振った。
「いや……もう虫とか全然、触れないよ。でも、見るのは平気だよ。空飛ぶ黒光りとか鳥肌が立つよね……」



あいつはもうカブト虫や他の虫とは一線を隔てている。ある意味キングだ。絶対あれを素手で触れない。顔に張り付こう物なら、きっと永遠に顔を洗い続けるだろう。それくらい嫌。卒倒するかもしれない。
「ああ……。そうなんですか、ならよかったです。貴女に嫌われたくありませんから!」
虎丸君がさっきとは違うさわやかないい笑顔を向けてきた。え、何、狙ってやっているの?それとも純粋な子供の笑顔なのだろうか。判断に困るわ……!


カブトムシ

  


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