浪川



浪川
負けるという事、それは俺たちの中で有りえないことで同時にあってはならない事態でもあった。俺にとってシードと言うのは、誇り高いものであった。俺は落ちぶれていたところをシードとして拾ってもらった。だからこそ、シードに誇りがあり同時にフィフスセクターとは絶大な存在であった。俺の能力の多くは、フィフスセクターに授けてもらったものでそのままの俺ならば開花しなかったものも多い。その一つ、ポセイドンだってそうだ、俺一人の力で奴を拝めただろうか。否、俺の力は日の目を見ることも無かったかもしれないホーリーロードという晴れやかな舞台の裏でひっそり息をするのをやめたろう。俺だけじゃない、海王自体無名のまま野郎どもと共に深海に沈む姿を思い浮かぶ。そう、深海魚のようにひっそりとただ忘れられるだけの存在。そんなのは嫌だと必死に努力もしてきただけど、雷門野郎の前に俺たちの能力も、シードとしての誇りもぽっきりと折られてしまった。



案外、呆気なかったな。俺たちの夢も、サッカーも全て全て泡沫の如く消え失せてしまう。「蓮助」「今は一人にしろ、どうして、俺に構うんだよ」見っともなくて、情けなくて八つ当たりしてしまいそうで、こんな所見られたくなかった。どうして、俺の力は奴らに及ばなかったんだ?俺の化身だって、俺だって全力だったさ。だから、負けたという事実も信じたくない。「蓮助が心配だから、そんな状態で何しでかすかわかったもんじゃない」「ああ、そうだろう!何しでかすかわからねぇよ!本当に!ありえねぇ、ありえねぇよ……俺たちが負けるなんて」俺たちこれからどうなるんだろう。折角拾ってもらったフィフスセクターからなんて言われるのか俺たちは少し恐れていた。お役御免、お払い箱。色々な言葉が沸いては出てくるけれどすべて、ネガティブな物でポジティブな物は全く出て来やしない!



「勝負事だよ、相手だって全力だったの。だから、負けることだってある。勝敗指示を無視した雷門が勝つことは有りえなくも無かったでしょ」「こっちは全員シードだった。向こうになんて全然いなかったんだぜ?それでも、それでも」俺たちの海は荒れ果てて、ゴミが今は浮いている。海神は死んだんだ。だから、荒れ果てて小魚たちは同じ顔をして泣いている。海神が死んだ今、誰もこの荒れた海を守る人がいない。「いい加減放っておいてくれ。お前に八つ当たり何かしたくないんだ」こんな姿も、弱った俺も、何も見られたくない。いつものように勝って笑ってそれから、……それから。ただ日常を過ごせればそれでよかったんだ。「いいよ、八つ当たりしてもね。でも素直に今は何処かへ行っておく、今はどんな慰めも言葉も届かないだろうから。……でも、部員のフォローは忘れないでほしいの、蓮助も辛いのわかるけど、部員だって同じだから。あと、私蓮助のするサッカーが純粋に好きだよ。フィフスセクターとか関係なしにね」



言葉には出なかったけれど「あ、」と思った。俺は大事な事を忘れていた。海神の墓を建てる事じゃない。部員のフォローだ。俺はキャプテンとしても失格だった。なんで一番大事な所を忘れていたんだろう、それに気づかされるなんて。背を向けられて俺から離れようとしていたところをようやく、後ろから抱きしめるように捕まえてみせた。「待て!……大事な事、思い出させてくれてありがとう」「うん、」今は泣いてもいいだろうか。皆に合わす顔が出来るまで。海神の墓標が出来るまで。

  


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