隼総



隼総

「て、天河原?!いやだよ、そんな所行きたくない!」親の仕事の都合で転向する羽目になったらしい。しかも、天河原。あの不良が多くて有名な学校に行く羽目に成ったのだ。人生最大の、不幸が今我が身に降りかかろうとしているのに当の親は笑い飛ばした。「何言っているんだ、あそこは天文分野に力を入れているんだぞ。プラネタリウムもあるし、皆お前と同い年だ。そこまで難しく考えるな」と豪快に笑い飛ばして背中をバシバシ叩いたのだ。わかっていないと思う。この時点で激しく嫌な予感はしていた。



やはり不良校と言われているだけあった。恐ろしい事に、クラスの半数以上がガラの悪い人間で良心的で常識的な人は少なく思えた。男子は特に怖いが、女子だってバリバリ髪を染めていて私は地味な方に部類されると自分で思った。転校初日にして早くも帰りたいと思いつつ「せんせー、こっち空いているぜ」と声に案内され席に着く。物珍しげに見る人と、興味なさそうな人の半々に分かれており、隣の毒々しい紫の紅を付けた男子が話しかけてきた。どうやら、先ほど席が空いていると言っていたのはこの子らしい。周りの視線が一気に興味から敵意に変わったのに私は気が付いた。「あの……有難うございます」「タメだろ。敬語なくていいぜ、それに俺も転校生だからさ」あ、そうなんだ。てっきり此処に馴染みすぎていて、元からいた子だと思っていたと失礼ながら思ったところニィと口角が持ち上がった。



「まだ、移動教室の事とかよくわかってねーだろ。暫く一緒にいてやるよ」有難く思えよという高圧的な態度を若干感じ、鼻につきながらも好意だと思いうんと頷いた。後に、私に興味を示してくれていた女子から彼は「プリンス」で学校の唯一のシードと言う奴で (主に女子からの) 人気者らしい。それから、隼総君はまだ、馴染めずに一人でいる私を良く誘ってくれるようになった。隼総君の計らいで友達ができり色々よくしてくれた。今日もまだ、一人で授業中ペアを組めずにいたところ隼総君に声を掛けられた。「一緒にやろうぜ。英語とか、かったりーよな」そういって、私の元まで来て机をくっ付けた。私は英語が苦手なので彼の足を引っ張るどころか、完全におんぶ抱っこのお荷物状態になるかもしれないと先に忠告をしておいたがそんなこと気にとめるでもなく進めていく。



見かけによらず完全にいい人らしい。プリンスがこんなにいい人だなんて他の人は知っているのだろうか、高嶺の花だとかやたらに持ち上げられているけれども。私にはいい人にしか見えない。英文を書きうつす。授業はテストに向けてか遅れを取り戻すようにハイテンポで進んでいった。まばらにいない人や、授業を聞いていない人も多い中先生も適当なように見受けられる。そんな中で浮くように私はきちんとした高校へ行きたいので真面目に聞いていた。隼総君はどちらかわからないが、私をじっと黄金色の猛禽類のような鋭い瞳で見つめて、何度もしばたたかせていた。



「お前、真面目だな。本当は此処に来たくなかっただろ?」厄介な連中ばっかりだしな、と喉元で笑いを押し殺して言った。素直に言うべきか言うまいか逡巡していたところ隼総君がいや、いいんだぜ。本当の事を言ってくれてもと背中を押すように言ったので「うん、怖かったから」素直に表情を曇らせながらも言うと「やっぱりな」とある程度理解していたように言った。私は天河原以外に行きたいとあれほど希っていたのだ。今も、一部の人々は怖いし、関わり合いに成りたいとも思わない。唯一、素晴らしいと思うのはプラネタリウムくらいで他は殆ど授業も遅れているし困ることの方が多い。



「俺も怖いか?」不意に隼総君が笑みを絶やして問うた。怖いか、怖くないかと言われれば怖くない。ただ周りのプリンスとはやし立てる女子が怖いので、一概には怖くないとは言い切れない。しかし、当の本人は良い人全開なので私は「怖くない」と回答した。隼総君の顔に明るさがとりもどって、また笑った。「そうか、良かった。俺、あんたに興味あるわ」その興味が何の興味なのか理解を得難かったが、紫色に引かれた唇がまるで磁石に引き寄せられるように私の唇にくっついてから、ああ面白いからとかそういうことじゃないらしいとわかったのだ。



  


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