セイ



名前は喜んでいた。だが、それに対して不審に思うのはサカマキであった。その内容というのが「セイに好きって言ってもらえた!」というからであった。サカマキの芸術作品であるアンドロイドたちには感情のプログラムを施されていないし瞬きも出来ない。それでも、この町を守るのも雷門に対抗できるのも彼らだけであった。「名前貴様、またセイのプログラムを弄ったな。私の芸術作品を汚すなど許さんぞ」サカマキが青筋を立てながら、セイに近づいて名前に何をされたんだと尋ねた。セイは極めて冷静な口調で「なにもされていません」と機械的に返した。



「そんな馬鹿な。名前のことを庇う必要はないんだぞ」「はい。でも何もされていません」「ほら。私は何もしていないって言ったじゃないですか。ねえ、セイは私が好きなんだもんねー?」「はい」可笑しい、何かが可笑しい。感情ひとつ動かせないセイにそんな感情はプログラムされていないし、されていたとしたらそれは名前が勝手にセイに施したプログラムとなる。しかし、名前も当の本人のセイも何もしていないされていないの一点張りだ。となると、残る回答は「セイがなんらかのバグを抱えた、若しくは一部がショートした」である。サカマキがセイの肩を掴んでセイと目線を合わせるように屈んだ。「……セイお前は故障したんだな。いますぐ私が直すからな。名前はセイとの接触を禁ずる。お前のせいできっとエラーが発生したんだ」そう冷たく言い放った。「そ、そんな……」



「大体、不毛だ。アンドロイドとそんな擬似的な恋愛をして何に成るというのだ。お前もそろそろいい年なのだから、人間の恋人の一人や二人自分で見つければいいだろう。例えば、私とか」さり気無くとんでもないことを言っているいい歳したおじさん(サカマキ)に名前があからさまに嫌そうな顔をした。「サカマキさんみたいな、おじさんなんて嫌ですよぉ……、私まだ、若いんですよ?」寒気がしますと、全身総毛だった体を両腕で抱きしめた。それは、体を温めるポーズに似ていてサカマキが鼻で笑った。「私みたいなのはおじさんではなくて、ダンディズムというのだ。お前はわかっていないな」しかし、まあ、その辺のアンドロイドではなく、私の芸術作品に惚れるところに関しては評価してやろうと上から目線の、場違いな意見がその口から飛び出た。



「セイ、行くぞ」「イエス」そう言って、サカマキの後を子供のようについて歩くので、名前がその背に向けて愛の言葉を叫んだ。「セイくーん!大好きだよー!」セイは一度だけ振り向いて一度だけ頷いた。彼はときたま動かなくなるのだが、今日の調子は絶好調らしい。まあ、彼というのはアンドロイドだからおかしな話なのかもしれないが、人間の男の子と設計されているので彼と呼んでも差支えないだろう。「こら、セイ。あいつを見る必要はないぞ。相当ひどいバグを抱えたようだな」「酷いですよ、サカマキさんー!お願いだから直さないで!ダンディズムだと私思っていますからー!本当に!」はたして彼は本当にバグを抱えたのか、名前にプログラムを勝手に弄られたのか、事実は闇の中に葬られたのだ。


色された現実

  


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