御門



あの作戦を決行する一週間前ほど前に私は御門と昼食をとっているときに聞いたことがある。それは本当にいつも通りの昼下がりだった。「御門はシードなんかじゃないよね?」出会った時も勘ぐって、御門に尋ねた言葉でもあった。安心したくて聞いた。御門は飲み物を机に置いて少しの間の後に「……違う、どうしたまだ不安なのか?」ってあの逞しい腕を私の頭上に翳して、それからさらさら髪の毛を撫でてくれた。「うん、ちょっとね」作戦のことは極秘なのでそれだけ言って俯いた。御門はそれ以上詮索せずに、優しげに瞳を細めて見つめた。



だから、御門のことを信じていたかった。雷門との試合の時に御門が化身を出したとき、彼が出した禍々しい漆黒のカラスのような風貌をした化身を見たときに、私は愕然としたのを覚えている。監督から、聞いていた今回のシードをあぶりだすという作戦(そして、追放するということ)。私は御門を信じていた。彼は一度たりとも自分が、シードだなんて言ったことはなかったし、そんなそぶりは一度も見せなかったから。恐らくは、帝国に潜伏する上でわざと黙っていたのだろうけれど。ただ化身を見たときは愕然としていながらもまだ、心のどこかで御門を信じていた。御門は私の大切な人だったのだから。シードじゃなくても化身は出せる人だっている。雷門の、神童君のように。御門だって、そうだろう。って苦し紛れの言い訳を心の中でしてやった。



試合終了後、御門に「御門はシードなんかじゃないよね」って詰め寄った。疲れているのとかそんな気遣いも忘れて、泣きそうな顔をしていたと思う。御門もいつもの険しい表情が、今にも泣き出しそうな壊れそうな表情をしていたから。「違う」って言ってほしかったのに、私の欲しい言葉を御門はいつまでたってもくれなかった。その代りに「すまなかった」と謝罪の言葉を口にした。何を意味していたか……私は悟ってしまった。「嘘つき、嘘つき嘘つきっ!違うって言っていたじゃない!」次から次に御門を傷つけるような言葉を叫んだ気がする。周りの人目も気にせずに、ただ子供のように泣いて喚いていたような気がする。



御門は辛そうで困ったような顔を浮かべたまま、私の頭を撫でた。「すまなかったな、名前。今まで騙していて」そうだ、長いこと付き合ってきたというのに。もう御門の事が信じられない。ただ、シードということを隠していただけに過ぎないというのに今までのすべてが嘘で塗り固められていた気がして、彼を許せなかった。「追放されちゃう、どうしてどうして。御門……、」感情が昂ぶって泣きながら、繰り返し御門を責めていた。口が勝手にしゃべっていく。何を言ってしまったか記憶がぼやけた。御門が好きだったからこそ、許せなかった。どうして、フィフスセクターなんかにという思いが強すぎて、止まらなかった。少ししてから御門を責めるのをやめて、監督に詰め寄った。このままでは御門は帝国にはいられなくなってしまう。「本当に、本当に追放しちゃうんですか?御門も」「ああ」無慈悲な声が告げた。監督は険しい顔をしながらも、私を慰めてくれるような仕草を見せた。お願いして御門だけでもって言いたかったけど私は項垂れて、言えなかった。例外はないのだ、シードは……全員追放との道しかないのだ。本当は御門を追放しないでって泣きつきたくて仕方なかった。ああ、駄々をこねる子供よりもたちが悪いよ。



「嘘つき、嘘つき。御門の嘘つき。全部嘘だったんだ、何もかもが」真実なんて無かったんだ。御門のシードじゃないって言葉も、あの真剣な目も、好きだって言葉も、今まで過ごした時間も、全部全部。本心なんかじゃなかったんだ。「嘘つき、御門なんか嫌いだよ」御門の顔が、ぐしゃりぐしゃり。歪んでいった。御門の顔が息苦しそうな、切なげな顔に変って、私の心もドクン。……痛んだ気がしたんだ。全部、嘘だといいのにね。


日から私たちは

  


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