星降



季節の七夕、星降君の幼少時のお話。これだけでも読める。



「香宮夜ちゃん、香宮夜ちゃん。何書いた?」香宮夜と呼ばれた少年の短冊を覗き込むと子供の字体で「月に行けますように」って綴られていた。月とはあの空に色々な形を覗かせるあの月の事だろうかと少女が首を傾げて尋ねた。「月?」「そう」大きな笹の葉が、風にざわめいた香宮夜が作った子供が作ったにしては整っている、飾り物も揺れた。あまりにも綺麗だったので少女が欲しいな、と言っていた飾り物だ。暗闇の中でぽっかり黄色く光って今日も笑っている月。「……かぐや姫?香宮夜ちゃんは月に帰っちゃうの?」二度と帰ってこないのかな、と少女が涙ぐんだ。ぐしゃぐしゃ、鉛筆で書かれたお願い事を消しゴムで掻き消して、鉛筆をまだうまく扱えないのか握りしめ書き直す。香宮夜ちゃんが月に帰りませんようにって泣きそうな顔で。「帰らないで」「馬鹿じゃないの」なんで人の夢が潰えるような内容を書くんだと香宮夜が怒りを露わにした。「だって、帰っちゃったら香宮夜ちゃん、寂しいもん」「お前嫌い」



暫く、飾り付けられたそれは片付けられなかった。柔らかな木漏れ日が、地面を撫でつける中でそよそよと微風に揺られた。いくつか、飾り付けが地面に落ちていて拾い上げた少女は涙を零した。香宮夜を追いかけていたのに、いつのまにか姿を見失ってしまった。あれから香宮夜とは口もきいてもらえないようだった。上がった息を整える。建物の陰から、吹き付けた風によって隠しようが無かった長いピンク色の髪の毛が舞い上げられた。すぐに誰が隠れて居たのかを察した少女が涙声で呼びかけた。「香宮夜ちゃん、ぐすっ、嫌わないでよ」ばれたのだと気が付いた香宮夜が諦めて建物の陰から姿を現した。「何なのお前」ぐずぐず泣く少女に苛立ったような声を向けた。



「だって、」「何?」ほら、早く!答えを急かすように言えば少女がしゃくりあげながら答えた。涙で声が掠れた。「寂しいんだもん!香宮夜ちゃんが好きだから居なくなったら嫌なんだもん!」尻切れになる、言葉を聞いて香宮夜が「はぁ?」と溜息に似た声を漏らして、それから少女の元へ近寄った。丁度真上には笹の葉が揺れていて、コントラスを描いていた。「……何それ。自分勝手」「ごめんね」「うん」香宮夜は、少女の謝罪に一度だけ頷いた。「……本当に自分勝手な奴。でも、……地球で待ってくれるって言うなら、お前の所に帰ってきてあげてもいい」香宮夜が少女の手に持っていたものに目を向けた。



「あ、お前いけないんだ。何、勝手に飾り付けもいでいるの」「落ちていたんだもん」少女の言い分に、香宮夜が見上げた。確かに飾り付けは減っている。さあ、と一陣の風が吹き抜けたことにああと納得した様に呟いた。「……風かな」香宮夜が自分の飾り付けがまだついているのを見つけて、軽くジャンプした。紙がこすれる音がして、飾り付けが香宮夜の手の中に納まった。形は幸い崩れていない。「取れた」「香宮夜ちゃんのは取れたんじゃなくて取ったんでしょ」「別にいいじゃん。俺のだし。……まだ欲しい?お前、欲しがっていたでしょ」「うん。香宮夜ちゃん、器用だね」「……ふーん。じゃあ、あげる。帰ってきてあげるから、ちゃんと待てよ」少女に飾り物を押し付けると、顔に笑顔が戻った。「うん」「……怒って悪かった」最後に香宮夜がポツリとつぶやくように謝罪の言葉を口にした。


  


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -