ベータ



病んでいる夢主。


「ベータちゃん。私ちょっと、過去へ行ってくるね。さようなら」名前さんが私の部屋に来るなりそういって、いつになく満面の笑みを浮かべるから、ああ、これは何かあるなってすぐにわかった。察しが例え悪くてもこの肌にまとわりつくような奇妙な、不気味な感覚にはすぐに気が付くと思う。だから私も「気を付けて行ってくるのですよ」なんて言えなくて、その腕を掴んで引き止めてしまったのです。「何処へ行ってくるつもりなんですー?」過去と言っても色々ある。大きく遡るのかはたまた、数年程度を遡るのか。「名前さんの私用なら、ちゃーんと報告しないと怒られちゃいますよ〜」他の奴らが怒られるのはどうってことないですけど、ちょっぴり嫌なんですよね。名前さんが勝手な事をするとは思えませんし。「……言えない、言ったら」もっと怒られちゃうよ。



「まぁ、マスターに怒られてしまうようなことなのですか?」頬に手を当ててわざとらしい、甘えたような媚びた声。名前さんがびくりと怯えた。言おうか言うまいか逡巡しているように見えました。それから、圧力に屈した。「……過去の私を絞殺しに行くから、」「そんなことしたらどうなるかわかっていますよね」存在を否定して、自分自身を手にかけるということは許されることじゃないの名前さんもわかっていますよね。「まさか、そんな私用に使っていいとでも思っちゃったんですかぁ?」「思っていないよ」思っていないからこそ。「死にたいならばいっそ私が殺しちゃいましょうか?」私の提案に怯え項垂れていた名前さんが顔をあげた。自分自身が手をかけるくらいならばいっそ私が殺して、破壊してさしあげます。



ベッドに誘導して、名前さんの矮躯を横たえた。「ベータ、ちゃん」私がその上に乗っかった。傍から見れば今からいけないことでもしようとしているかのようにすら見える。薄らと涙を浮かべた名前さんが私を見上げたまま、抵抗しない。私が両手を首にかけるとようやく身じろいだ。まだ、抵抗を見せないので力を入れてみた。苦しくなってきたのか酸素がいかなくなったのか、名前の顔に赤みが帯びた。「心配しなくても大丈夫ですよー、名前さんの代わりは沢山いますから」貴女がチームから外れても代わりは沢山いますもの。……私にとっての名前さんが居るかはわかりませんけどね。それは私も例外じゃないけれど、そう代わりはいつだって。一度唇に口づけた。苦しんでいる名前さんもいいけれど体重を乗せてそろそろいたぶらずに、止めをと思った時だった。名前さんの震える手が抵抗を見せたのだ。「い、や……だ」私は生きたい。涙を流していた。苦しさからくるものが全てではないと悟り私が手を退かした。



「それが貴女の、本当の答えなんですよ」ベータちゃんごめんなさいごめんなさい。とさめざめと涙を流す名前さんの涙を舌で追った。「うああ、生きたい生きたいよ。ベータちゃん、ベータちゃん」私の体を抱いて泣き続ける。「そうですよねぇ、私も個人的にならば名前の代わりは居ないと思っているんですよ」名前が私の言葉に、益々泣きじゃくった。嗚咽している。あーあー、こんなに泣いちゃって。私も本当に愛すべき彼女を手にかけて、後悔しなかったと言い切れるのだろうか。だから、私は本当の意味でのさようならを名前さんへ、教えられない。



らの生きる世界へ、さようなら


  


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